葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round33!!

819 名前：名無子投稿日：01/11/12 22:20 ID:g6lBCW+D

＜来栖川芹香の回想＞

　物心ついたときから、私は独りでした。
　家族は厳格なお爺様と優しいお婆様。そして大勢の執事やメイドたちが私の身の回りの世話をしてくれていましたが、同じ話題を共有できる楽しいお友達はおりませんでした。
　お爺様は厳しい方で、私はろくに外に出してもらえることはありませんでした。
　毎日のように先生がやってきては、お遊戯やお稽古ごとを学ぶ日々でした。
　お婆様は優しい方でしたが、お爺様のいうことに背くようなことはありませんでした。
　お父様とお母様はその頃アメリカにいて、お仕事をなさっていたようです。
　そのため私はご両親というものを肌で感じたことはありません。
　小学校に通うようになってからも、登校時はセバスチャンにお送り、下校時にはお出迎えをしてもらう毎日でした。
　そのためご学友というものは出来ましたが、仲の良いお友達というものは私にはよくわかりませんでした。
　わたしの唯一のお友達といえば、母が私に残してくれた兎のぬいぐるみだけでした。わたしはぬいぐるみと一緒に暇を見つけては、母の蔵書に篭って本を読むことを日課としていました。
　そんな私に妹がいると知ったのは、１０才のときです。
　アメリカで生まれた一つ年下の妹でした。
　お父様とお母様に連れられて、アメリカから帰って来たのです。
　生まれて初めて見た妹の姿は、私にそっくりでした。しかし妹には私にはない、元気さと快活さを備えていたのです。
　お父様とお母様に後押しされ、私は妹に挨拶しました。
「…………………」
　──始めまして。私が来栖川芹香です。
　精一杯声を出して挨拶したのですが、通じたのでしょうか。
　案の定、妹はきょとんとしたみたいです。
　しかし妹は次にはにっこりと笑うと、
「始めまして。綾香お姉ちゃん。これからずっと一緒にいようね」
　元気に答えたのです。
　この日、私は始めて、ぬいぐるみや幽霊さん以外に親しく話せる方を手に入れたのだと気付きました。