葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round36!!

664 名前：名無子投稿日：01/11/15 01:55 ID:hVnSFNdz

＜郁美、パワーアップ・前編＞

　今日はあたしの心臓の手術をする日です。
　お兄ちゃんは心配そうに私を見守っています。
　千堂さんは私の手をしっかりと握ってくれています。
　思い切って千堂さんの前に表われた春こみのあの日から、千堂さんはよくあたしの病室へお見舞いにきてくれます。
　あたしはそれがとっても嬉しくて、よくお話ししてしまいます。
　マンガのこととか、同人誌のこととか。
　そういうとき兄ちゃんはあまり機嫌がよくないみたいだけど、それでも千堂さんと喧嘩することはなくなりました。
　しかし今日は、さすがに千堂さんもお兄ちゃんも不安の色が隠せません。
　お医者様が言うには、成功の確率はよくて半々だそうです。無理もありません。
　あたしもそう言う顔をしているのかな。
「千堂さん……」
「何、郁美ちゃん」
　あたしは千堂さんに声をかけました。手術の前にどうしても伝えておかなくてはならないことがあるのです。

665 名前：名無子投稿日：01/11/15 01:55 ID:hVnSFNdz

＜郁美、パワーアップ・後編＞

「あたし、千堂さんの絵や同人誌に、いつも元気づけられていたの。３年前の絵画コンクールで始めて千堂さんの絵を見たときから」
「ただの佳作だったけど」
「ううん、とっても素敵な絵だと思った。見ているだけで安らいで、それでいて元気が伝わってくる。そんな素敵な絵を書ける人はどんな人だろうって、あたし、身体弱いから、なおさあなたを応援したくなって」
「結局絵はやめちゃったけどね」
「千堂さんがマンガ同人誌を始めたらしいってお兄ちゃんから聞いたときは驚いたけど、あれだけ素敵な絵が書けるひとだもん、きっと素敵なマンガを描いてくれるんじゃないかって思ったの。そして千堂さんは、そんなあたしの期待に応えてくれた」
「俺のほうこそ、郁美ちゃんの応援メールにどれほど勇気づけられたことか」
「千堂さんのマンガはいつもあたしを勇気づけてくれた。手術を受ける決心もついたのも千堂さんのおかげ。だからワガママついでにもう一つお願い。もし手術に成功したら、一緒にデートしてくれませんか」
　お兄ちゃんの顔色が一瞬ひきつったのが見えました。うふふ、なんかおかしいの。
　千堂さんは目をぱちくりしているようだったけど。
「何言ってるんだ。何十回でも何百回でも、好きなところへ連れてってあげるよ」
　優しい笑顔でにっこり答えてくれました。
「ありがとう、千堂さん」
　あたしは手術台に乗せられると、そのまま手術室のほうに運ばれていきました。
　手術の難易度は高く、失敗する危険性も高いものだそうです。
　でも、もう恐くはありません。
　千堂さんが分け与えてくれた勇気が、あたしをパワーアップしてくれたから。