葉鍵板最萌トーナメント!!1回戦 round49!!

496 名前：名無子投稿日：01/11/28 03:08 ID:N10ELHXx

＜痕〜由美子変〜＞　その１

「あら、こんにちわ、柏木くん」
「由美子さん。見舞いに来たよ」
「……お邪魔します」
　あたしの入院している隆山総合病院に、今日も柏木くんたちがやって来た。
「どう、由美子さん。身体の調子の方は」
「大丈夫……とは言えないわよね。今でもあれは悪い夢じゃないのかって思ってるぐらいだもの」
　そう、あたしは数週間前、隆山で起きた誘拐事件に巻き込まれてしまったのだ。
　雨月山の鬼退治の伝説を調べに隆山にやってきたあたしは、高級旅館『鶴来屋』に宿泊中、いきなり部屋に入ってきた男に誘拐されてしまった。
　そのままどこかのアパートに監禁された挙げ句、鎖と薬で自由を奪われたままレイプされてしまったのだ。
　あの時、実際にどんな目にあったのかはぼんやりとしか思い出せない。お医者様が言うには、あまりに強烈なショックに陥ったために、一時的に記憶喪失に陥ってしまったのだろうとのことだった。
　これは人間の精神の安定を保つための防御機構の一つらしい。
　そのため、あたしが拉致監禁されていた２〜３日間のことはあまり覚えていない。気がついたらあたしを誘拐した男は倒されて、そしてあたしは柏木くんの腕の中で泣いていた。
　だからあんなことがあったにも関らず、（男性なのに）柏木くんとだけは安心して話していられる。

497 名前：名無子投稿日：01/11/28 03:09 ID:N10ELHXx

＜痕〜由美子変〜＞　その２

「ここ、いい部屋ね。こんな大きな個室を使わせてもらえるなんて、悪い気がするわ」
「いや、これは千鶴さんのお詫びの気持ちだから。後でお金取るなんて言わないから、安心して使っていいよ」
　そうなのだ。
　誘拐現場が自分ところの旅館だったということで、柏木くんの従姉妹の会長さんが責任を感じてしまったらしい。こんな大きな病院の個室を手配して、専属の医者やカウンセラーさんまで付けてくれたのだ。
「でも、なんか個室が立派過ぎて、かえって落ち付かない気がするのよ。これってもしかして、柏木くんの企み！？」
「ははは、そんなことないって」
「なーんだ、残念だなあ」
「千鶴姉さんの好きなようにさせてあげて。千鶴姉さん、今回のことでしょげてるから」
「か、楓さん……」
　話に割り込んできたのは柏木楓さん。柏木くんの従姉妹のひとりだ。
　口数が少ない割に、あたしが柏木くんと話し込むとそれとなく割り込んでくることがある。
　しかし、邪険に扱うこともできない。
　誘拐されたあたしを助けてくれた柏木くんと一緒にやってきたのが、この楓さんだった。あたしを助けるために奔走する柏木くんを手伝ってくれたのも、この人だったらしい。
「あ、ありがとう……」
「別に、あなたのためじゃない……」
　相変わらずつっけんどんな雰囲気の楓さんとは、上手く話ができない。
　いや、それだけじゃない。多分、この人は柏木くんのことが好きなんだ……と思う。
　だから、それが気に入らないのだ。
　多分、あたしも柏木くんのことが、好きだったんじゃなかったかな。助けてくれた恩人というだけじゃなくて、もしかしたらずっと以前から。
　あたしの目から見ても、柏木くんと楓さんはお似合いだと思う。
　だから、余計に気に入らない。
　あたしは今日、重大な決心を固めていたのだ。

498 名前：名無子投稿日：01/11/28 03:09 ID:N10ELHXx

＜痕〜由美子変〜＞　その３

「じゃあ、由美子さん。今日はこの辺で失礼するよ」
「うん、柏木くん。また来てね」
「それじゃあ……」
「あ、楓さんはちょっと残ってくれない？」
「え……」
　あたしは楓さんにここに残ってくれるように頼んだ。
「ごめん、柏木くん。ちょっと大切な用事だから」
「まあ、由美子さんがそう言うのなら。楓ちゃん、それじゃあ後をよろしく」
　柏木くんはそういうと、病室を退室した。
「それじゃあ、楓さん。呼び止めて悪いけど、単刀直入に言うね」
　あたしは本題を切り出すことにした。
「ずばり聞くけど、楓さん。柏木くんのこと、好き！？」
　案の定、楓さんは一瞬目をぱちくりしたけど、すぐに答えた。
「好きよ。誰にも負けないくらい」
「そっか、そうなんだ」
　あたしは溜め息をついた。それは当然、予想した答えだ。
「でもね、あたしも好き。あの日助けられたときから、いいや、多分それ以前から」
「……」
「今日はあなたにそれを言いたかったの」
「……あなたに耕一さんの何が分かるというの」
「えっ！？」
　しばらく黙っていた楓さんが返してきたのは、あたしをなじる言葉だった。
「あなたは耕一さんの、何を知っているというの。あの日、耕一さんがあなたを助けるために、どんな目にあったかも覚えていないあなたが！？」
「そんな、だって、あたしは……」
「わたしは覚えている。耕一さんがあの日、由美子さんを助けるために、あの男とどんな戦いをしてきたか。耕一さんがあの時、どれほどの覚悟をして試練を乗り越えたか」
　睨みつけるような目付き。その奥に込められた強い意志に、あたしは言葉を発することができなくなった。
「耕一さんは地獄を見たの。ううん、これからも見るかもしれない。そしてその地獄を、あたしは耕一さんと一緒に戦う覚悟がある。あなたにそれが出来て！？　地獄の恐怖から記憶喪失に逃げ込んだあなたが！？」

499 名前：名無子投稿日：01/11/28 03:09 ID:N10ELHXx

＜痕〜由美子変〜＞　その４

「そんな、そんなこと言わなくても……」
　あたしは泣きじゃくった。楓さんは、そんなあたしに容赦はしなかった。
「あなたは恐怖から助かったという安心が、そのまま耕一さんに結びついてしまった。だからその安堵感を、恋だと勘違いしてしまったの」
「でも……、それでもあたしは柏木くんのことが……！！」
　あたしは楓さんに叫びだしそうになったが、その言葉は途中で途切れてしまった。
　楓さんの、目が、紅く縦に避けている！！
　いきなり部屋の空気の密度が濃くなったように、息苦しくなった。
「どうしてもというのなら、あの時の記憶、わたしが思い出させてあげる」
　そして、楓さんの意識（？）があたしの心に叩きつきられたとき、あたしは今度こそ声にならない叫び声をあげていた！！
「あ……、あ……、ああ……！！」
　思い出したのだ。あの日、あたしの目の前で繰り広げられた光景を！！

『貴様が柳川だな、覚悟しろ』
『ふん、虎の穴に獲物が飛びこんできたか……』
　あの日、柏木さんはあたしの監禁されている部屋に乗り込むと、そのままあたしを誘拐した男と取っ組み合いと化した。
　そして……
『ここまでだ、柳川。俺とお前では格が違う。鬼の一族である俺たちが相手に組み敷かれる事の意味、お前なら知ってるだろう！』
『くっ！　誇り高き狩猟者であるこの俺が、お前ごときに組み敷かれるとはな』、
『とうとう観念したか。それではお前の下の穴は、俺が頂く！』
『う、うう、許せ……貴之！！　あ、ああー』
　そうだ。そのまま柏木くんは男の服を破り割いて、そして……。
　その光景を目の当たりにしたあたしは、あまりのショックのあまり忘却の彼方にその記憶を封印したのだ。

「あ、いや、いや、いやああああ！！」
「どう、思い出した？　これがあの時の真実。普通の人間であるあなたの精神では、あの光景は耐えられなかった」
　そういうと、ショックで混乱しているあたしをおいて、楓さんは退室した。
「でもあたしは違う。たとえ耕一さんが○○でも、ともに運命を歩んでいくだけの覚悟はできている」
　あたしは、心の中から沸き上がる痕に、ただただ泣き叫ぶしかなかった。