葉鍵板最萌トーナメント!!2回戦 Round81!!

341 名前：名無子投稿日：01/12/25 01:27 ID:VfxIJMLu

＜ルミラのクリスマス＞　その１

　ここはルミラのアパート。
　かつて魔界で権勢を誇ったルミラ一族も、いまは六畳二間のアパートで雑魚寝の身分だった。
　そんなある日。
　アレイは、部屋の掃除と飾りつけをはじめた。
「きよし〜♪　このよる〜♪」
「アレイ、一体なにやってるにゃ」
「はい、今日はクリスマスですから」
　たまの質問にアレイが返事を返す。
「なんでえ、キリスト教のお祭りかい？　あたいら魔族には、関係ねえだろ」
　イビルが反応した。何か不機嫌そうだ。
「いいじゃありませんか。今日は人間界にとっておめでたい日です。わたしたちも人間たちと共存している以上、一緒にお祝いしてもよろしいじゃありませんか」
「け、くっだらねえ」
　掃き捨てるように言うイビル。
「はいはい、イビル。エビルが芳晴くんとデートしているからって、アレイにあたってもしょうがないでしょう」
「な、なんだよメイフィア。別にエビルは関係ないだろ？」
　そう反論しながらもイビルは焦っていた。図星だったのだ。
「それにね、エビル。クリスマスはもともとキリスト教徒のお祭りじゃないの。地方伝承だったサンタクロースが、もともと不明だったイエス・キリストの誕生日と結びついて出来たのがクリスマスなのよ」
「……知ってるぜ、そのくらい」
　イビルは、掃き捨てるように言った。
「人間界に出てから、日も長くなります。いつもわたしたちはルミラ様に気を使わせておいでですから、たまにはこうしてパーティを開いて楽しませてあげたいと思いますので」
　アレイに言われて、日頃、仲間うちでのいざこざのとばっちりでルミラに迷惑をかけどおしのイビルは神妙に感じた
「……そうか、そうだよな」
「イビルは反省するニャロメ！」
「おめえが言うな、おめえが！」
　いざこざを起こすもう一方の当事者であるたまの余計な一言に、イビルは怒気を感じた。

344 名前：名無子投稿日：01/12/25 01:28 ID:VfxIJMLu

＜ルミラのクリスマス＞　その２

「あーあ。そういえばクリスマスにはプレゼント交換がつきものだよなあ」
　イビルは街を散策しながら呟いていた。
　今回のクリスマスパーティはルミラにはまだ内緒にしてある。
　いきなり本番でルミラを驚かせようというサプライズド・パーティだ。
　幸い、知力の高いルミラは今日も家庭教師のバイトに出かけている。
　しかし露天商を営んでいるとはいえ、日頃の生活費でかつかつのイビル達にそうそうプレゼントが用意できるはずもなかった。
「いったいルミラ様は、何を喜ばれるのかな」
　それは、考えるまでもない。
　ルミラの一番の望みは、破産して抵当に取られた屋敷を取り戻すこと。かつての魔界の貴族としての地位と威厳を取り戻すことである。
　したがって、お金を一円でも多く溜めておくことが一番喜ばれるはずだ。
「そう考えるとクリスマス・パーティで無駄金使うのは、あまり好ましくはないはずなんだけどね」
　とはいえ、イビルの目から見ても、ルミラが日頃からストレスを溜めているのは分かっていた。
　家計簿を見て頭を抱える姿をだ。
　アレイは真面目だが、残念ながら数字には弱いタイプだ。
　メイフィアは理性的だが、真面目になって働くことには縁遠い。
　フランソワーズは自動人形（オートマター）なので、管理する側ではない。
　たまとイビルにいたっては口より先に手が出るタイプで問題外である。
　したがって一族の家計簿の管理という地道な作業は、エビルと本来主人であるはずのルミラが行なっているのだ。
　そしてその家計簿の内容はまっかっか。赤字である。
　主たる原因はイビルとたまのケンカのとばっちりにおける弁償代である。
　両者の間でケンカが始まると、押しの弱いアレイでは止められず、メイフィアは傍観者に身をおく。
　エビルはそういうことには無関心なので、ケンカが始まっても止めることはしない。
　しかし、一族再興を悲願とするルミラにとっては黙って見過ごせるものではない。
　必然的に、イビルとたまを最後に説教するのはルミラの役割になるのだ。
「やっぱり機嫌ぐらいはとっといた方がいいよなあ」

351 名前：名無子投稿日：01/12/25 01:30 ID:VfxIJMLu

＜ルミラのクリスマス＞　その３

「芳晴、クリスマスとは特別なのか？」
　芳晴と映画を見に行った帰りに立ち寄った喫茶店で、エビルは尋ねた。
「へ、江美さん。いきなりどうしたんです」
「わたしは人間界で生まれ育ったわけではないのでいまいちピンとこないが、今日は街中を見ても綺麗な電光で装飾されてまばゆい限りだ。今日は特別な日なのか」
　どうやら本当にピンとこないらしい。
「特別だと思いますよ。実際、こうして江美さんと一緒にいられますし」
「それは、やはりキリスト教の祝祭日だからなのか」
「……うーん違うんじゃないかな。そもそもサンタクロースは本来キリスト教とは関係ない伝承だし」
「意外だな。芳晴はキリスト教の退魔師（エクソシスト）だからてっきりそう答えると思ったんだが」
「キリスト教とは関係ないと思いますよ。宗派は関係ありません。みんなが今日を特別な日だと思えば、それが特別な意味を持った日になるんです」
「みんなが特別な日だと思えば……か。いや、確かに芳晴の言うとおりだ。変なことを訊いてすまなかったな、芳晴」
　そういうと、エビルは飲みかけのコーヒーに口を付けた。
「あの……、江美さん。綺麗な夜景が見える場所を知っているんです。よかったらこれから──」
　ちゃーんちゃららら〜らら♪
　エビルをさらに誘おうとした芳晴のポケットから、携帯電話の呼び出し音楽が鳴り出した。
「え、あ。すみません江美さん。
　──コリンだな。何なんだ一体！──え、魔族！？──一人じゃ手に負えないって？──マジかよ。いまデート中なんだぜ。──分かった。行ってやるよ。高くつくからな。──じゃあそこで待ってろ。──
　……ちくしょう、コリンの奴。すみません、江美さん」
「エクソシストとしての仕事なんだろう。わたしのことは気にするな」
「すみません。これ、ここのお代と……江美さんへのプレゼントです」
　そういうと、芳晴はお金と一緒に小箱をテーブルの上に置いて駆け出していった。
　エビルがその箱の中身を開けてみると、それは安物だが品の良い小さな指輪だった。
「芳晴のやつ……」
　──メリークリスマス。似合うと思いますよ、江美さん──芳晴──
　メッセージカードには、そう添えられていた。

352 名前：名無子投稿日：01/12/25 01:31 ID:VfxIJMLu

＜ルミラのクリスマス＞　その４

「ふう〜、すっかり遅くなっちゃったわねえ」
　家庭教師のバイトを終えて、ルミラは帰途についていた。
「すっかりご馳走になっちゃったわね。まあ、引き止められちゃ仕方ないけど」
　今日のバイトが終わった後、ルミラはそこの家族からクリスマス・パーティに誘われたのだ。教え子の生徒に慕われていたことと、その成績が上がったことに対するお礼を兼ねてでもあった。
　本来ならすぐにでも帰りたいところだが、ただでご馳走が戴けるとあってルミラもお呼ばれすることになった。
「さすがにアパートのみんなには悪い事したかな。まあ手土産もあるからこれで勘弁してもらおうかな」
　安い食費の中でやりくりしている仲間のことを思うと、ルミラもさすがにバツの悪さを感じた。
　おすそ分けしてもらった手みあげで許してもらえるだろうか。
　そう思いながら、アパートの玄関を開ける。
「メリークリスマス！　ルミラ様」
　パパン、パーン！
　突然のクラッカーの出迎えに、ルミラは驚いた。
「ど、どど、どうしたのよ、みんな」
「今日はクリスマスです。ルミラ様、いつもご苦労様です。今日は私たちからの、日頃のお礼を申し上げます」
　アレイが代表して、ルミラの疑問に答えた。
「でも、いいの。こんな事してて」
「みんなと相談して、安く上げるようにしました。今日一日くらい、ぱーっと騒いで楽しみましょう」
「楽しもう、楽しもうニャ！」
「みんな……」
　ルミラは、この場にいる自分の仲間たち──アレイ、たま、フランソワーズ、メイフィア、イビル、エビル──を眺めた。みんな、心から自分を慕ってくれている。
「さあ、ルミラ様。これはわたしたちのプレゼントです」
「みんな、ありがとう！」
　ルミラに花束とメッセージカードが渡された。
　そのメッセージカードには、こう書かれていたという。

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　翌朝、ドンチャン騒ぎの二日酔いでバイトどころではないルミラ一族が、アパートの部屋で転がって唸っていたという。