葉鍵板最萌トーナメント!!2回戦 Round83!!

62 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:30 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その１

　今回のこみパも無事終了した。
　大志の押しかけ評価をありがたく頂戴し、立川さんのメールの返事もきちんとしておいた。
　本当なら少しのんびりしたいところであるが。
「まったく、同人誌なんてカタギのする仕事じゃないよなあ」
　なにしろこみパはほとんど毎月開かれる。
　次回のこみパの申し込み締切が間近に迫っていたため、申込書に書いておかなくてはならない。
「さてと、ジャンルとページ数はと……」
　ピンポーン。
　次のこみパに向けて、題材とページ数を考えていたところに、玄関のチャイムが鳴った。
「和樹〜、いる〜」
　ドアの外から聞こえてくるのは聞き慣れた瑞希の声だ。
「瑞希か！？　どうしたんだ一体」
　俺が玄関のドアをあけると、少々バツが悪そうな顔で入ってきた。
「ごめん。迷惑だった？」
「いや、そんなことないけど」
「そう、良かった」
　ほっとした様子で瑞希は頷いた。
　しかし、どうもおかしい。
「おい、瑞希。今日はどうしたんだ」
「え、あ。おかしいかな」
「おかしいじゃないだろ。いつもならもっと勝手知ったる他人の家ってな感じだろ！」
　瑞希には鍵も渡してあるし、いつもならもっとずけずけと部屋に入ってきてもおかしく無いのだ。
「あ、あのね。和樹に訊きたいことがあるの」
「ん、なんだ」
「あのね……、つまり……、その……、なんだ……」
　どうも瑞希の歯切れが悪い。そんなに訊きにくいことなのか！？
　その時、瑞希が手に持っているものがちらちらと見えてきた。
　あれは、もしかして──こみパの申込書か！？

63 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:30 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その２

「ふふ〜ん、瑞希ちゃ〜ん。その後ろ手に持っているものは何かなあ」
「え、あ、いや」
　俺の猫なで声に、瑞希は真っ赤になって持っていたこみパの申込書を後ろ手にまわした。
「もしかして、もしかしたら、こみパの申込書かあ」
「な、何よ。あたしがこみパにサークル参加したらおかしい！？」
　意地悪な俺の言葉に、ますます真っ赤になる瑞希。
「いや、おかしくはないぜ。そうかあ、瑞希も、とうとう同人誌デビューか」
「わ、悪かったわね。いまさらで」
「そうだな。遅すぎたくらいだぜ」
　予兆はあった。
　カードマスターピーチのモモちゃん（ピーチバージョン）で瑞希がコスプレデビューしたのがこの前の秋口。
　冬の入り口ごろにはオタクグッズ専門店で大人買いをしていた（本人にオタクの自覚は無かったが）。
　この前の春こみでは、超大作ＲＰＧ『ラストレジェンド９（通称：ＬＬ９）』を３回クリアし、ひいきの同人サークルに知り合いが出来て、さらには歴史やおいという通なジャンルに食指を伸ばしていた。
　瑞希がサークル参加するのも時間の問題だったといえよう。
「まあいいじゃねえか。こみパはサークル参加した方がずっと楽しいぜ」
「そ、そうよ。分かってるじゃない」
　そういうと瑞希は、まだ白紙の申込書を目の前に出してきた。
「それでね、和樹。この申込書の記述の仕方がよく分からなくて。サークルカットとかもあるし」
「ああ、これはだな……」
　俺が申込書の書き方を説明しようとしたその時。
「ぶらぼー！　まいしすたー瑞希！！　とうとうお前も同人誌デビューを決意したか！｣
　だあああああ！
　この腹の底から響いてくるようなタチの悪い言葉は！？
「大志！　お前どこから沸いて出た」
「なに人をボウフラの用に言っているのだ、まいだーりん。吾輩とお前は不即不離。いついかなるときでもお互いの心が赤い糸で固く結ばれているのを忘れたか！」
　やな関係だよなあ。

65 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:31 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その３

「それはそうとてまいしすたー。お前の同人誌デビューの件、しかと聞かせてもらった」
「いつの間に聞いてたたんだ」
「愚問だな、まい同士。吾輩はいつどんなことがあっても同士たちのことは分かるように、この部屋に無線機を忍ばせて置いてあるのだ」
「って、盗聴器をしかけているのかよ、この部屋に！？」
　犯罪だぞ！　まったく常識のない奴だ。
　今度業者に来てもらわなくてはいけない。
「吾輩はこの日が来ることは分かっていた。まい同士瑞希はおたくの素質があることをな。自分に素直になれないしすたーなだけに、このまま同人から目を背けたままかと案じていたが」
「勝手に変な期待かけないでよ」
「いやいや。今や芳賀玲子と並ぶコスプレクィーンであるお前のこと。同人誌でも我らが野望の一翼を担うことは間違い無し！」
「だから世界がどうとかは関係ないんだってば」
「しかし同士瑞希よ。同人誌ではお前はまだ無名。すこし宣伝しておいた方がいいかもしれんな。ホームページを開くとか、ＢＢＳで宣伝活動するとか」
　毎度の事ながら、人の話を全然聞いていないなあ。
「そうだ！　同士瑞希よ。今を時めく世界最大のインターネット掲示版、２ちゃんねるで宣伝活動するのはどうだ！
　例えばいま最大のイベント《葉鍵板最萌トーナメント》で
　『<<高瀬瑞希>>に一票！　ところで今度同人誌だすことになったんだ。ここがホームページね。みんな、絶対買いに来てよね』
　とか、さりげに宣伝文句を書いておくとか」
「どこがさりげなのよ！」
「ただ、この方法の問題点は、荒らしが大勢やってくることだな。バカオタクの荒らしに耐えられるだけの忍耐と精神力を兼ね備えていないと、お薦めできない」
　ダメじゃん。
「ずぇったい、やらないでよね、そんなこと」
　ココまで噛み合わっていない会話もそうそうないよなあ。
　既に傍観者モードになっている俺だった。

66 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:31 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その４

「ところでまいしすたー、最初に尋ねるべきだったが、申請ジャンルはどれにするのだ」
「そうだ、俺もまだ訊いていないや」
　大志の言葉に、俺もまだ瑞希の申請ジャンルを訊いていなかったことを思い出した。
「ど、どこだっていいでしょ、バカ」
「どこだっていいわけではない。ジャンルには流行廃りというものがある。そう、例えば今の時期なら……」
　そういうと、大志は考え込むようにしてうめいた。
　こう見えても大志のバカは、流行を読むのには聡いやつだ。
「そうだな。やはりここはカードマスターピーチが一番の旬だろう。第２シーズンも絶好調、今度映画化もされるというし、なにしろまいしすたーのコスプレの定番でもある」
「だから、勝手に決めないでよね」
「何、違うのか。それ以外となると、『ヒカルの拳』がアニメ化も開始して話題ではあるな。なによりお姉様受けのする作品は、まいぶらざー和樹には欠けているものだ」
「悪かったよな」
　どちらかというと美少女萌えの作風である俺には、お姉様受けするショタの要素はつらいところだ。
「後は、衛星放送の『まほろいど』だな。やはり萌えの基本はメイドさんだ」
「だから、ロリとかショタとかメイドさんとか、そんなものとは全然関係ないんだってば」
　勝手な事を吐かす大志に、瑞希が文句を言った。
　すると大志は、愕然とした表情に陥った。
「な、なんと。ショタでもメイドでもないというのか。そうすると後は……そうか同士よ。まいしすたー瑞希は我々の想像よりはるか先まで行っているようだぞ」
「な、なんだよ、それって」

69 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:31 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その５

「ロリ、ショタ、メイド。これら健全な売れ筋ジャンルを蹴ってまで同士瑞希が描きたいものと言えば……」
　健全なのか！？
「そう、後は十八禁しかあるまい。いや不覚であった。まいしすたー瑞希にそこまでの覚悟があったというとは」
「ちがーう！！」
「いやいや、みなまで言わなくていい！　いくら同士とはいえ、まいしすたー瑞希も一人の女性。われわれ男のまえでそんなことが打ち明けられなくても致し方あるまい」
「だから、人の話を聞きなさいよ！」
「そんなこともあろうかと、吾輩は心強い助っ人を用意しておいた。彼女たちに存分に相談するが良い！　かもーん！」
　大志が声を掛けると、玄関からさらに誰かが入ってきた。
「こんばんわ、瑞希っちゃん。話は聞いたで。そうかあ、これでとうとうあんたも同人仲間やな」
「い、猪名川さん。ど、どうしてここに」
　瑞希が信じられないといった表情で尋ねた。
　確かに、大志の奴、どこをどう考えれば、あらかじめ由宇の奴を呼んでおけるんだ！？
「いややわ、うちと瑞希っちゃんの間やないか。困ったことがあったらお互い様、それがこの世界の約束やないか」
　邪気のない表情で話す由宇。
　この表情がくせものなのだが。
「さてと、瑞希っちゃん。十八禁同人誌の話しやったな。十八禁といえばまず主人公とヒロインが成り行きでおっ始めるのがお約束や。瑞希っちゃん、男の人との経験は！？」
「あ、ある分けないでしょ！　そんなこと」
「そうかなあ。瑞希っちゃんなら、成り行きで青姦ぐらいやってると思うんやけど」
「やってない！！」
　赤くなって否定する瑞希。
　おい、変なこと話すなよ。こちらまで赤くなってしまうぜ。

72 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:32 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その６

「そうか、やってないのか。それはダメやなあ。本番をやっておかないと、話にリアリティが出えへん」
　そういうものなのか！？
　十八禁同人誌にリアリティは必要なのか。
「そうや、和樹はん！　瑞希っちゃんに本番おしえてやってーな」
「うむ、それは名案。まいしすたー瑞希も、これで一皮むけるだろう」
　な、いきなり何言い出すんだ！？
「ちょ、ちょ、ちょっと止めてよ、いきなり何言い出すのよ」
「そ、そうだよ。こういうのは当人同士の合意がないと」
　思わぬ展開に、俺と瑞希は真っ赤になって否定した。
「我々のことは気にするな。道端の電柱とでも思えばよい」
「そうそう。ぱーっといこう、ぱーっと」
「だから、そんなのダメだって！！」
　瑞希はぶんぶんと首を降った。
「うーん仕方ないなあ。せっかく和樹はんとのいいシーンが見られると思ったんやけど」
　残念そうに呟く。由宇は諦めたようだ。
「まあ待て、まい同士由宇。瑞希はまだ男には慣れていないかもしれない」
「そっか。そうかもしれんな。よっしゃ、うちが一肌脱いだろ！」
　そういいつつ脱ぎ出す由宇に、俺も瑞希も目が点になった。
「な、なにをするつもり！？」
「まずは女同士肌を重ね合わせることから始めよっか、瑞希っちゃん。こうして少しずつ慣れていくんや」
「や、やめて。なにもそんなことしなくても……」
「なに、気にすることはあらへん。ヒロイン同士のレズものも、十八禁のお約束や」
「ちーがーうー！！」
　迫りくる由宇に瑞希は抵抗する。
　まあ、無理もないよなあ。
　しかし、これから一体どうなるのだろうか。

74 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:32 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その７

「まあ待て、まい同士由宇。同士瑞希がここまで抵抗するということは……」
　大志が止めに入る。
　ち、大志め。いいところで。
　不承不承由宇は瑞希から手を引いた。
「た、助かった……」
　しかし大志の奴、今度は何を思いついだんだ？
「なんと、そうであったか。不覚であった。十八禁は十八禁でも、やおいの方だったとは！？」
「な、なんでそうなるのよ！？」
「案ずるな、まいしすたー瑞希！　こんなこともあろうかと、もう一人の助っ人を用意しておいた。かもーん！！」
　まだ呼んでたのか！
「やっほー、こんばんわ。高瀬さん、聞いたよお。やおい始めるならなんであたしに最初に相談しないのさあ」
「は、芳賀さんまで」
　入ってきたのは玲子ちゃんだった。やおいとなればそうだよなあ。
「んーとね。それじゃあまず実地見学からいこうか」
　実地見学か。なにをするんだろ。
　……って、やおいの実地見学ぅ！？
「それじゃあ千堂くん、九品仏くん、よろしく」
「ちょ、ちょっとよろしくって……」
「うむ。吾輩に男色の趣味は無いが、まいしすたーのためとあらば一肌脱ごう。さあ、まいぶらざー和樹、吾輩の胸に飛び込んでこい！　お前の熱い思い、吾輩が受け止めてやろう！！」
「やめんかー！」
「いいわー、やれやれー、和樹ぃ！」
「そう、そこからぶちゅっと」
　もう収拾が付かない……。
　みると、瑞希が肩から震えて出していた。
　やばい、これは……
「み、みんな出てって─────！」
　瑞希は俺たちをマンションから追い出さすと、そのまま鍵をかけてしまった。
　って、俺の部屋だぞ！

77 名前：名無子投稿日：01/12/26 22:33 ID:4sDdeE41

＜瑞希の初体験・同人紙編＞　その８

　１ヶ月後。
　こみパ会場のジャンル「その他」に、瑞希のサークル『おいしい紅茶屋さん』のスペースがあった。
　サークル主催者、高瀬瑞希の初の同人誌『美味しい紅茶の入れ方』は、紅茶にまつわるショートストーリーと紅茶のさまざまなうんちくが綴られたコピー本だった。
　それは３０部という小部数だったにもかかわらず、購入したお客さんたちには好評だったという。

「なんだ、同人誌を作るっていうからどんなやつかと思ったけど、やっぱり瑞希らしいものだな」
「わるかったわね、オタクっぽくなくて」
　帰り道、瑞希の同人誌を読みながら俺達は帰途についた。
「で、どうだ。はじめてのサークル参加は」
「そうね。やはり自分で作った本が売れたときは嬉しかったな。こういう喜びがあるから、同人誌って止められなくなるのかな」
「そうか」
「ねえねえそれでね、紅茶がらみでお客さんたちと話し込んじゃってさあ、今度紅茶の美味しいお店を教えてくれるんだって……」
　瑞希のはじめての即売会は、どうやら成功だったようだ。
　俺は、瑞希の楽しそうな話ぶりを飽きずに眺めていた。