葉鍵板最萌トーナメント２回戦Round92!!

720 名前：名無子投稿日：02/01/11 02:39 ID:jDn4Lk8Z

＜主宰さまの野望・プロデビュー編＞　そにょ１

　前回までのあらすじ

　同人界の暗黒サークル『腹白い姉妹』は世界征服の前段階として、こみパ征服をほぼ掌中に修めていた。
　しかしそこに、選ばれたおたく戦士、千堂和樹が立ち上がった。『腹白い姉妹』が差し向けた第１の怪人・九品仏大志を、和樹はその拳一つで倒したのだ。
　千堂和樹の力に目をつけた『腹白い姉妹』の主宰さまは、第２の怪人・澤田真紀子を召喚したのだった。
　あらすじが実際の内容と微妙に異なるのは許せ。


「和樹くん、あなたには才能が有るわ。プロを目指さない！？」
「お、俺が、プロに！？」
　同人作家千堂和樹のもとに、コミックＺの編集長にして既知の仲である澤田真紀子からプロデビューの誘いがかかったのは、２月こみパが終わった後の会場廊下でであった。
「今度雑誌の企画で、期待の新人たちに読み切りを掲載するの。ファン投票で人気のあった作品には連載化もありうるわ。あなたにそのうちの一作を書いて欲しいのよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして俺なんかに声を……」
　和樹の同人歴はまだ１年にも満たない。編集長からは目をかけられているとはいえ、自分より優れた同人作家はまだ他にもいるように思えた。
「和樹くん、もっと自分の才能に自信を持ちなさい。あなたの作品には読者を惹き付けるものがあるわ。同人誌即売会という井の中の蛙よりも、もっと上の、世界を目指しなさい」
「世界……」
「読み切り３２ページ、ジャンルはファンタジー。期限は１ヶ月。どう、やれる？」
　編集長の言葉は挑戦的だった。

721 名前：名無子投稿日：02/01/11 02:39 ID:jDn4Lk8Z

＜主宰さまの野望・プロデビュー編＞　そにょ２

「俺は──」
「先輩、何をしているんですか！？」
　和樹が答えようとしたとき、割り込んでくる者がいた。
「え、南さん！？」
「あら、南。お久しぶりね」
　そこに居たのは、南だった。こみパスタッフの制服に身を包んだ南は、顔を真っ赤にして怒気をはらんでいた。
「あ、先輩。お久しぶりです……じゃありません！！　先輩、和樹さんに一体何をしていたんですか！？」
　真紀子と南は、高校時代の先輩後輩の関係にあることは和樹も知っていた。しかし和樹は、南がここまで真紀子に食ってかかるのを見たことがなかった。
「あら、和樹くんをプロデビューのスカウトに来たのよ」
「先輩。とうとう和樹さんのサークルにまで手を出していたんですね」
　鼻であしらう真紀子に、食ってかかる南。
　和樹もさすがに二人の様子がおかしいと思った。
「あの、南さん。さっきから何を言っているのですか」
「和樹さん。よかった、あなたはまだ先輩の魔手に搦め取られていないんですね」
「いや、編集長は俺にプロデビューの誘いをしただけで」
「だから、違うんです！！」
　南の表情は真剣だった。

722 名前：名無子投稿日：02/01/11 02:40 ID:jDn4Lk8Z

＜主宰さまの野望・プロデビュー編＞　そにょ３

「最近、暗黒サークル『腹白い姉妹』に従わないサークルが相次いでこみパ参加を取りやめているんです。おかしいと思って調べていたところ、妙なことが分かったんです」
　南の話に真紀子の顔が歪んだ。
「『腹白い姉妹』に従わないサークル参加者に、プロデビューの誘いをかけている編集者がいるです。誘いに載った参加者はデビュー用の原稿を仕上げるために、こみパ参加を取りやめて……」
「当たり前の話じゃない。プロのマンガ家は片手間に同人誌をかけもち出来るほど、甘い世界ではないわ」
「厳しい指摘をビシバシした挙げ句、ほとんどの場合、使えない原稿だと没にされて結局はプロデビュー出来なかったりするんです」
「……そうなんですか？」
　それは和樹も初耳だった。
「愚問ね。彼らのほとんどは、結局はそこまでの作家だったってことよ」
「おかげで最近のこみパは、『腹白い姉妹』の息のかかったサークルばかりになってしまって……」
　南の口から明かされた『腹白い姉妹』の陰謀に、和樹は愕然となった。
「そんな、編集長までが……『腹白い姉妹』のメンバー……大志と同類だったなんて。作品内で唯一の良識派だと思ってたのに……」
「仕方ないじゃない、仕事だもの！！」
　和樹のボケツッコミに、真紀子は逆ギレした。
「わたしにだって生活があるのよ。会社のオーナーが『腹白い姉妹』になった以上、命令に従わないわけにはいかないじゃない！
　どーせわたしは『腹白い姉妹』のメンバーよ。この間だって、
　『《葉鍵板最萌トーナメント》で<<主宰さま>>に１票』
　ってえんえん書かされて、社員全員で多重させられたわ。まったく、あの人何を考えているのかしら……」
「せ、先輩、そんな苦労をしていたんですか……」
「へ、編集長。ストレス溜まっていたんですね……」
　段々グチに変わっていく真紀子の境遇に、さすがに和樹たちも同情してしまったようだ。

723 名前：名無子投稿日：02/01/11 02:41 ID:jDn4Lk8Z

＜主宰さまの野望・プロデビュー編＞　そにょ４

「でも和樹くん、さっきの話は嘘じゃないわよ。あなたのコミックＺのデビューの件は本当の話。このチャンスを逃す手はないわよ」
　気を取り直した真紀子は、改めて和樹をプロデビューに勧誘した。
「和樹さん、騙されないでください。あなたの作品を待っている人は、春こみにもいっぱいいます！」
「南は黙ってて！」
　真紀子は南を黙らせると、和樹に向き直った。
「どう、和樹くん。プロデビューの覚悟はできた？」
「俺は──、プロにはなりません」
　和樹の言葉はプロへの意志を否定するものだった。
「どうして！？　和樹くん、このチャンスを逃す気なの！？」
「良かった、和樹さん。これからもこみパにいてくれるんですね」
「違うんです！！」
　それぞれの反応を返す二人を黙らせると、和樹は真実の理由を告げた。
「違うんです。俺、このままだと──大学の単位がやばいんです！！」

　こうして、第２の怪人・澤田真紀子の底知れぬ陰謀も崩れ去った。
　これもみな、千堂和樹の人知れぬ活躍のおかげである。
　しかし、暗黒サークル『腹白い姉妹』の野望それ自体が潰え去ったわけではない。
　頑張れ、千堂和樹！　負けるな、千堂和樹！！
　こみパの平和を守るのだ！


「今回はあたしの出番がありませんでしたね」
「妹よ。お前の過ぎたる野望は、この俺が全身全霊をもって止めよう」
「次こそは、あたしが活躍します」
「漢（おとこ）として生まれたからには、負けると分かっていてもやらねばならぬことがあるのだ！」

　次回、＜主宰さまの野望・漢道編＞に……続くのか！？