葉鍵板最萌トーナメント!! 準決勝 Round162!!

309 名前：名無子投稿日：02/03/03 19:45 ID:QAAFU62T

＜佐祐理と舞と夜の魔物＞　その１

　オレが約束の場所に訪れた時、佐祐理さんの姿は見えなかった。
「まさか！」
　もしかして、一人で高校にいる舞に！？
　オレの脳裏に、最悪の状況が過（よぎ）った。
　オレと佐祐理さんは、舞に誕生日プレゼントを贈ることを約束していた。一緒に兎のぬいぐるみを買ったりもしたのだ。
　しかし舞は高校が終わると、いつも深夜の校舎内で魔物を警戒している。たった一人で深夜の学校に巣くう魔物と戦っているのだ。
　ふとしたことから、オレはそんな舞と知りあった。その魔物と戦うものとしての舞に興味を抱いて接するうちに、舞の親友の佐祐理さんとも知りあったのだ。
　舞と佐祐理さんの仲は深い。不祥事を起した舞をかばうために、あの嫌らしい生徒会長の久瀬の誘いに応じたりもしたし、舞はその久瀬を脅して佐祐理さんを元の鞘におさめたりもした。
　だが、誰にも知られずに魔物と戦う舞の姿は、親友である佐祐理さんも知らない。オレと舞だけの秘密だった。
　俺達が深夜の学校に一緒に居ることを知った佐祐理さんは、自分もつきあうことを主張したが、舞の剣技のテストの前にあっさりと断られた。
　だから今晩も、舞の深夜の警戒が終わってから、佐祐理さんと一緒に舞のもとへ訪れるつもりだった。
　その佐祐理さんが、一人で舞の居る学校へと向かったのだとしたら。
　何の心得も心構えも無い人間が、見えない魔物が巣くう夜の高校に向かえば、最悪の場合……！
　オレは息切れするのももどかしく、深夜の高校に向かった。

310 名前：名無子投稿日：02/03/03 19:45 ID:QAAFU62T

＜佐祐理と舞と夜の魔物＞　その２

　あははーっ。
　祐一さんたら、約束の時間に遅れるなんて、本当にしょうがない人ですね。
　舞へのプレゼントはわたしが預かっています。ここはひとつ、わたしが舞にいきなりプレゼントを贈って喜ばせてあげましょう。
　祐一さんはわたしが一人で舞のもとに行くのには消極的でしたけど、わたしだってもう子供じゃありません。夜の学校くらい、一人でいけますのよ。
　夜の学校は、確かに不気味ですけど。
　ううん、ここは一人で乗り込んで、わたしだって舞の足手まといにはならないことを証明するんです。
　しかし、校門は終っています。困りましたね、どうやって入りましょう。
　うんしょ、うんしょ。
　あははは、塀を乗り越えるなんて小学生の時以来です。
　校舎は玄関が終っているので、職員用の非常口から入りましょう。
　はやく舞のところに訪れなければ。
　……困りましたね。舞はどこにいるのでしょう。
　通いなれた校舎といっても結構広いですし、第１校舎と第２校舎に分かれていますのでどこに舞がいるのか見当がつきません。
　校舎の中を捜し回れば、そのうちばったり舞と出会えるでしょう。
　さてと、階段を上がって……
　へんですね。何かの気配がします。
　小柄ですばしっこい感じですが、見回りの用務員のおじさんとも思えませんし、きっと舞なのでしょう。
　どうやらわたしがやってきたの、舞にバレてたようですね。せっかく驚かそうと思ったのに、逆に驚かされそうになるなんてちょっと残念です。
　仕方ありません。お応えしましょう。
「舞、そこにいるんですかーっ。驚かさないでくださーい、いいものを……」
　振り向いたあたしが舞に声をかたのですが、わたしは最後まで言い切ることができませんでした。
　そこにいたのは、予想もしなかったものでした。

314 名前：名無子投稿日：02/03/03 19:46 ID:QAAFU62T

＜佐祐理と舞と夜の魔物＞　その３

「舞、佐祐理さんは！？」
「祐一、佐祐理がどうかしたのか」
「一人で深夜の学校にやってきたらしいんだ。魔物が徘徊する、この高校に……」
　オレは学校に付くと、舞に手短に事情を伝えた。早く佐祐理さんを探し出さないと！
　オレと舞は、校舎内を駆け出した。
　くそう、一体佐祐理さんは、どこにいるんだ！？
　階段を上り下りして探していたところ、家庭科室の電気がついているのが目についた。
　この時間帯に、電源が！？
　オレと舞がいぶかしんで扉をあげると、そこには有る意味、予想を越えた光景が広がっていた。
「あははーっ。もう少し待っててくださいね。もうじき、ご飯が出来ますからねー」
　それは、家庭科室の調理器具と具材を使って、料理をしている佐祐理さんの姿だった。
「佐祐理、一体何をしている」
「あ、舞。それに祐一さんも。見て分かりませんか？　料理を作ってるんです」
「それは分かるけど、一体誰に」
「あははっ、あの子たちですよ」
　あの子たちと佐祐理さんが指差したところを見てみたけど、そこには誰の姿も見えなかった。
　……いや、オレたちが舞にプレゼントしようとした兎のぬいぐるみがある。その兎が勝手に、あっちこっち動いたりしている。
　ってまさか！？
「舞、いけませんよ、そうやって刀を振り回してばかりじゃ。この子たちも恐がって襲いかかってしまったって言ってましたよ」
　やはり、あの見えない魔物がぬいぐるみを動かしていたのか！？
「佐祐理さん、もしかして見えない魔物たちを手なずけたんですか？」
「魔物ですかー、この子たちが！？　こんな可愛いくて良い子たちを魔物呼ばわりするなんて、祐一さんもいけませんね。めっ、しますよー」
　いや、オレには見えない魔物に馴染んでる佐祐理さんの方が信じられないが。
「はい、ご飯が出来ましたよー」
　そう言ってお皿に持った佐祐理さんの料理は、見る見るうちに無くなっていった。多分、魔物が食べているのだろうが……見えないんだがら文字どおり無くなっている……。
「はいはい、そんなに慌てて食べなくても、いくらでも作ってあげますからね」
　オレたちはただ、その光景を呆然と見つめていた。

315 名前：名無子投稿日：02/03/03 19:47 ID:QAAFU62T

＜佐祐理と舞と夜の魔物＞　その４

「舞、祐一さん。この子たち家で預かってもよろしいでしょうか」
　３人でかえる道すがら、佐祐理さんはオレたちにそう尋ねていた。
　いま、魔物は佐祐理さんの腕に抱えられている。オレには見えないのでよく分からないが、佐祐理さんや舞がいうには全部で５匹いるのだそうだ。
　アレだけ強大な力をもった魔物なのに、佐祐理さんに頭を撫でられたら小さくなってしまったという。
「……オレからは、何とも」
「佐祐理、その魔物は人を襲う。危険だ」
　オレたちは困惑したまま返事をしたが、佐祐理さんは平気だった。
「大丈夫ですよ。この子たちは多分、深夜の学校に自分たちだけしかいなくて寂しかったんですよ。あたしがきちんと面倒をみてあげます」
　いや、面倒を見るといわれても。
　オレと舞は困惑した。オレはともかく、舞としては……。
「舞、認めてくれないと、今度からお弁当作ってあげませんよ」
「それは困る」
「じゃあ、いいんですよね」
「……はちみつくまさん」
　舞もしぶしぶ認めたようだ。
「わあ、よかったですね。それじゃあ名前をつけないといけませんね……」
　そういって、佐祐理さんは抱きかかえた魔物を天に掲げて（掲げているのだろう、多分）はしゃぎ回っていた。
「しかし、舞。魔物が佐祐理さんのペットになった以上、夜の警戒はどうなるんだ」
「……魔物がいなければ、守る必要もなくなる」
「それじゃあ、もうオレたちは夜の学校に行く必要もなくなるのか」
「……」
　オレたちは、喜びまわっている佐祐理さんの後ろ姿を呆然と眺めているだけだった。