葉鍵板最萌トーナメント!!決勝 Round171!!

278 名前：名無子投稿日：02/03/09 02:08 ID:cpfLBPsh

＜千鶴さんの夢＞　その１

　秋の隆山は紅葉がまぶしい。。
　赤に黄色に橙に緑。紅葉や銀杏や楓や蔦などの落ち葉が降り注ぐ隆山中央公園にて、私は耕一さんに呼び出されました。
「ごめんね、千鶴さん。いきなりよびだしたりして」
「いいえ、かまいませんわ。耕一さんに呼び出されるなら」
「ほら、こんなに息急き切って。仕事、忙しいかったんでしょ」
　どんなに忙しくても、耕一さんに会えるのならわたしは構いませんのに。
「紅葉（もみじ）がまぶしいですね」
「ええ……」
　わたしが落ち付くまでの間、耕一さんはまばゆいばかりの紅葉（こうよう）を眺めていました。
「……ところで耕一さん、話って何ですか」
「千鶴さん、一度だけしか言いません。良く聞いてください」
　そういうと、耕一さんはしっかりとわたしを見据えました。
「千鶴さん。結婚してください」
「…………！」
「俺ももう社会人です。鬼を完全に制御することもできますし、まだまだ千鶴さんには及びませんが、足立さんにしごかれて経営にも自信が持てました。千鶴さんの背負っている重荷の半分を引き受けたい」
「耕一さん……ほんとに私なんかでいいの」
「俺は千鶴さんがいいんだ。オッケーしてくれるよね」
「……はいっ」
　それは、どんなに嬉しい言葉だったのでしょう。
　柏木の家長と鶴来屋の会長、そして鬼の血の宿命。妹たちを守るために、私は今まで自分を殺してきました。鬼の血の宿命として、耕一さんを殺そうとしたこともあったのです。
　わたしはこの日がくるのを夢見ていましたが、自分はそんな資格がないと思っていたのです。
　そんな私を、耕一さんは受け入れてくれた。
　わたしはそのまま、耕一さんの腕の中に抱きしめられました。
　その日、私は世界中の誰よりも幸せでした。

279 名前：名無子投稿日：02/03/09 02:08 ID:cpfLBPsh

＜千鶴さんの夢＞　その２

「……耕一さん。わがままなお願いですけど、一つ聞いてもらえますか」
「なんだい、千鶴さん」
「私、幼い頃から夢があったんです。将来結婚したら、美味しい手料理をだんな様にもてなしてあげたいと」
「へー、そいつは可愛らしい夢だなあ」
　耕一さんは、にっこりと笑いました。
　とっても素敵な笑顔です。
「私の料理の腕は分かっています。でも、少しでも上手くなりたかった。叔父様や耕一さんに暖かい料理をもてなしてあげたかった」
　だから梓が怒るのも構わず、私はいつも料理の練習をしていたのです。
「お互い仕事に忙しくて、時間が取れないことは分かっています。しかしたまに……１ヵ月に１度くらいでいいですから、だんな様として私の料理を食べてくれませんか」
「千鶴さん……」
「わがままなのは分かっています。でも夢だったんです」
「千鶴さんの料理なら、いつでもかまわないよ。楽しみだなあ。美味しい料理、期待しているから」
「ホントですか！？　うれしいです」
　こうして、私は耕一さんと婚約することになりました。
　結婚したら、どんな料理をだんな様にふるまおうかしら。
　きゃっ。
　こう見えても料理にも自信があるんですよ。梓なんかいつも悔しがっているぐらいに。耕一さんも、私の豪勢なお料理にきっとほっぺたがとろけ落ちるほど驚くに違いありませんわ──

「梓お姉ちゃん、千鶴お姉ちゃんがおコタで寝ちゃってるよ」
「あー、最近仕事仕事で忙しそうだったからな。疲れが溜まってたんだろ。しばらく寝かせてあげときなよ」
「でもとっても嬉しそうに寝てるよ。きっといい夢見ているんだね」
「きっと、焼きいもがおいしいっていう夢なんだろう。夢ならダイエットも気にする必要ないし、千鶴姉らしい夢だけどね」
　あるうららかな昼下がり。
　柏木家は今日も平和だった。