魔法少女プリティサミー・ショートショート





女王候補のヒ・ミ・ツ

※このショート・ショートは、ＴＶ版プリティサミーを元ネタに若干の味付けをしています。






　これは、魔の世界ジュライヘルム。先代の女王が崩御した時点での話。

　皇の塔の最上階、神官達のいる神殿では、次代の女王候補である魔女が４人、招集を受けていた。

　７人いる神官達が次々と声をかける。

「よくぞきた、魔の力に優れたる魔女達よ」
「おぬし達も知ってのとおり、先代の女王が崩御された」
「これから１年の間、我らが世界、ジュライヘルムは喪に服すことになる」
「ジェニミの天秤も再び、その平衡の力を失うことになるだろう」
「しかし、ジュライの女王の正統は血筋によって選ばれるわけではない」
「その正統は、魔力によって選ばれるのだ」
「そこで、魔の力に優れたるお主たちに尋ねたい」

　主席神官からその言葉を聞かれると、４人の女王候補達はのどを鳴らす。

「汝らは、ジュライの女王になるために、厳しい修行を積む覚悟があるか！」

「「「「はい」」」」

　４人いる女王候補達は、そろって声を上げた。

「よろしい。これからお主らは、女王候補だけに与えたる部屋を与えられることになる。
　１年後、降臨の儀において、お主達の中から女王を選出することになる。これから１年間、そこでお主達は修行を積み、ジェニミの天秤を支えるにふさわしい魔女となるのだ」

　主席神官の声で、女王候補達は次々と退出した。



　春の間では、女王候補の一人・津名魅がお花に水を与えていた。

「まあ、見てください、魎皇鬼。きれいなお花がいっぱい」

　春の間だけあって、魔法タンポポや魔法スミレ、魔法チューリップといったジュライの春の花が部屋の周囲に色とりどりに咲いているのだ。

「あの、津名魅様。女王になるための修行は行わなくてもよろしいのでしょうか？」
「魎皇鬼、こうやってお花の面倒をみるのも、修行の一環なのですよ」

　魎皇鬼は、お花の面倒と女王の修行にどんな関連があるのか理解に苦しんでした。
　きっと津名魅の中では、常人には理解できない理論があるのだろう。

　津名魅はお花に水を与えながら、女王の抱負は何にしようかと考えていた。



　夏の間では、女王候補の一人・裸魅亜が日光浴を楽しんでいた。
　裸魅亜は魔法で海水浴場の光景を作り出し、意図的に部屋を海水で満たすと、ピーチパラソルを出してチェアに横たわっていた

　ポロン、ポロロン♪

　裸魅亜の周囲に、どうしようもなく情けないウクレレの音が聞こえてきた。

「ちょっと〜、せっかくの雰囲気が台無しじゃないの。もっとしっかりと弾きなさいよ、留魅耶」
「そんなこと言ったって、この楽器弾くの、初めてなんだよ、姉さん」

　留魅耶と呼ばれた彼女の弟は、必死になって本を読みながら、ウクレレを弾いている。

「それよりも姉さん、こんなことしててもいいの？」
「どーいうことよ」
「だって、女王の修行の最中だというのに、こんなことをして遊んでると、候補から外されちゃうよ」

　ドゲシッ！

　裸魅亜の美しいおみ足が、留魅耶を踏み潰した。

「いいの！　魔の力じゃ私が一番なんだから、ちょっとくらい遊んだところで出し抜かれないわよ！　それよりも１年間も修行ばっかりしてたら、息がつまっちゃうわ！　息抜きも必要なのよ、分かる！」
「……………はい」

　留魅耶は納得できなかったが、納得しないわけにはいかなかった。



　秋の間では、女王候補の一人・露美御が、何やらひとりでトンテンカントンテンカンをやらかしていた。

「ぐふふふふふ、わたくしが女王になった暁には、あの汚らわしい地球を破壊してさしあげますわ」

　そういいながら、秋の間を改造してＮＴシステムと魔法戦艦の制作に励んでいる露美御だった。
　どうでもいいが、薄暗い部屋で一人でトンテンカンやってる姿は無気味だぞ、露美御。

「お黙りなさい！　あの汚らわしい地球をなくすことが出来るのなら、この程度の労苦、いといませんわ」

　女王修行の１年間の間、秋の間からはなにやら無気味な音が聞こえてくるという噂が立ち、人が近づいてくることはなかったという。



　そして冬の間では……。



「なに、女王候補を辞退したいだと！？」

　最後の女王候補の申し入れに、神官達は戸惑いを隠せなかった。

「どうして女王を辞めたいと申すのじゃ」

　逆に聞き返してきた神官の質問に、彼女はきっと顔を上げて答えたという。

「いくら修行だからといっても、あれはあんまりですわぁ！」


　神官達の説得にも関らず、彼女の意志は固く、辞退届けは受理されたという。

「まったく、女王の審査を辞退するとは、なんという不祥事」
「しかし、歴代の女王の審査でも、必ず一人は候補が辞退するというぞ」
「これは一体、どういうことなのだろうか」



　その年、冬の間では、記録的な魔法豪雪が降っていたという。



ちょっとした後書き

　ＴＶ版魔法少女プリティサミーの２５話を見て、思い付いたネタです。

　露美御が秋の間なら、ほかの女王候補も春の間とか夏の間とかがあるのではないか……そうすると４つ部屋があるはずだから、１人足りないなあというわけで思い付いたのがこのネタです。

　ニフティにアップしたのは１年以上も前の作品なのですが、見てのとおりの小品ですのでホームページへのアップはためらっていました。申し訳ありません。


初出：'97/ 4/12 Niftyserve FANCREA MES(13)/#2530
再掲：'98/ 6/ 9 http://www.tky.3web.ne.jp/~junhelm/ss/queen.htm