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マッチメーカー ＳＳ 
第２３話 エピローグ編【狂詩曲】 （第５７回大会） 第２４話 エピローグ編【鎮魂歌】 （第５８回大会） 最終話第１編 エピローグ編【終楽奏】（１）（第５９回大会／第７回トーナメント） 最終話第２編 エピローグ編【終楽奏】（２）（第５９回大会／第７回トーナメント） 最終話第３編 エピローグ編【終楽奏】（３）（第５９回大会／第７回トーナメント） 最終話第４編 エピローグ編【終楽奏】（４）（第５９回大会／第７回トーナメント） 最終話第５編 エピローグ編【終楽奏】（５）（第５９回大会／第７回トーナメント） 最終話完結編 エピローグ編【終楽奏】（完）（第５９回大会／第７回トーナメント） キャストスクロール | ||
第２３話 エピローグ編【狂詩曲】 （第５７回大会）タツヤが試合で事故死した次の大会。アインの姿が、会場控え室にみえた。 彼女はマッチメーカーに参加するためにここにいるのだ。 なぜ、参加することを決心したのだろう。その答えは分かっている。タツヤをマッチメーカーへ駆り立てたのは、その大もとの原因は私にあるからだ。 タツヤを死なせたのも、私の責任だ。 いやそれ以上に、タツヤが何に惹かれてマッチメーカーに参加してきたのか、それを知りたいのだ。自分の命を賭けてまで戦う選手は、何もタツヤに限った話ではない。老若男女、下は１０歳ぐらいの女の子から、上は高齢に達した老人まで、多くの選手がそこで戦い、そしてはかなく命を散らしていく。 それほどまでに多くの選手を惹きつける何かが、マッチメーカーにはあるのだろうか。それを少しでも感じないことには、タツヤに向ける顔がない。 「タツヤが生きていれば、決して君にそれを望まないと思うのだが」 そうだ、あのときあの男は、確かにそういった。 アインもそう思っている。自分の後に彼女がドーラーになると知ったら、タツヤは死んでも死にきれないだろう。 「それは分かってます。しかし私は、タツヤのすべてを知りたいのです。彼がマッチメーカーで感じたことを、私も体験してみたいのです。でないと私、死んでも死にきれません」 「死ぬ気か？ お前」 あの男はそう言うと彼女の眼を見つめた。 「心配なさらないでください。私は死ぬつもりはありませんし、死にたくもありません」 今もそう思っている。気持ちの整理をつけるために、どうしても出場したいだけなのだ。 それに対する男の返答は、意味深なものだった。 「『チーム３１』はタツヤのためのチームだ。今回で解散させる予定だった。君がどうしてもあのチームで出場したいというのなら、それなりの代償を払っていただくことになるのだが」 彼女は、こくりとうなづいた。 「つらい思いをすることになると思うが、いいのかね」 あの男の口調は、冷ややかなものだった。にもかかわらず、彼女には男の思いが伝わって来るようだった。 「貴方は、やっぱりお優しい方ですわ。私は今でもそう思っています」 「アインちゃん、準備はいいかね」 そう声をかけてきたのはサカキだ。少し物思いにふけっていたようだ。 気がついて、慌てて声を返す。 「そう緊張するもんじゃない、といっても無理かもしれないがな。アインちゃんにはやっぱり性格的にも向いてないじゃないか」 「それは分かってます。しかし私にはこうするしかなかったんです」 自分でも、相手を叩きのめすことに向いてるとは思えない。 だからチームのみんなは、整備を引き受けるにあたって一つだけ条件を付け加えてきた。 「約束だからな、３回までは整備を引き受けるさ」 ３回もあれば十分だと思う。 「まぁ、細かいことはコンピューターがやってくれる。パイロットは状況に応じて、どの武器を使うか指示するだけでいいようになってるからな。全くのビギナーでも、戦えないことはないぞ。もっとも、経験もある程度必要だけれどもな」 そう言って、サカキはアインを機体の前にまで連れて行ってくれた。アインが乗ることになっているアーマーナイトだった。 「所持金ぎりぎりまで整備しておいた。アーマーナイトの強さは機体価値に直接結び付くからな。大抵の相手には負けんはずさ」 タツヤが死亡し、その香典料により莫大な所持金を『チーム３１』が獲得した。あの男は解散するつもりだったと言っているが、所持金の権利を持っている限り、いつまた別のチームでそれを使って参加する気になるとも限らない。 アインは、自分がその莫大な遺産を処分するためにも参加しているつもりであることを自覚している。 「もっとも、前回からの指名制度で狙われる可能性も高いがな」 「そのことですが、私、戦って見たい相手があります」 私はそのことをサカキに話した。タツヤが見ていたものを見るためには、自分よりも強い相手と戦ってみることが必要なのではないか？ 少なくともタツヤは、強いからといって尻ごみする人ではなかったと思っている。 試合に出てみると、アインは、自分の思惑が甘かったことを思い知らされていた。 指名されていた。相手はアンディ、青いアーマーナイト“クィルスカイ”に乗るドーラーだった。彼は、一発屋であると聞いていたことがある。 アインの乗る機体“ラプソディ”も短期決戦用の整備がなされていたが、相手はそれ以上だったように思う。 いきなりターボを使ってきて、マントごと右腕を壊してくれたのだ。 それだけならまだしも、グラビトンとかいう恐ろしい武装で、機体を爆発してくれた。 大会最後の試合だというのに、それもかなりの機体価値差があって、わずか２分で負けてしまったのはひとえに認識不足にあったからと思う。マッチメーカーは命を賭けた商売と認識しているつもりでいながら、まだまだ甘く見ていたのだ。 タツヤは戦いの後、激しく落ち込んだことがあったと聞いたことがあるが、この辛さは一度経験して見ないと分からない。 しかしそんな辛さは、一度経験すれば十分である。アインにはまだ、マッチメーカーの本当の魅力が理解できたとは思えない。 狂ったように戦いを挑んで、あるいは挑まれて、本当にそれが楽しいのだろうか。何かを感じるのだろうか。それとも今回の相手は、たまたま特別だったとでもいうのだろうか。 やられたと思った直後、アインは衝撃で意識を失っていた。しかしシェルターコアが身を守ってくれたおかげで、彼女はタツヤの後を追わずにすんだわけである。タツヤを守ることはできずに、アインの身を守った。脱出装置に感謝しながら、それでもなお、彼女はその皮肉を噛みしめていた。 タツヤの仲間だった人達が駆け寄ってくれた。普段は賑やかで楽しい人達であるが、いざという時には頼りになり、私たちを心配してくれる。こんな人達に囲まれていたタツヤは、運が良かったと思う。 しかし彼女が、マッチメーカーの本当の魅力に気付くのは、まだまだ遠い話かもしれない。 それから一週間ほどたった時、『チーム３１』の整備工場兼訓練室に、一人の男がやってきた。 年の頃は見た目は４０過ぎだろうか。レイバンのサングラスをかけていて良くは分からないが、整った顔立ちをしているようだ。背も高く、いい体つきをしている。高級な背広を着ていて、どことなく気品というものを感じさせる物腰である。 その男は、つかつかと受付けのところまでやって来ると、いきなり尋ねてきた。 「アイン＝リーカスは今、どこにいるかね」 少々横柄な、人に命令することに慣れた口調だ。 受付嬢は、その男の容姿、態度にあっけにとられていた。 「どこにいるのかね！」 「あっ、はい。今日は休日でここにはいないと思いますが」 怒鳴られて受付嬢は我にかえった。 「ならば彼女の住所を教えてくれないかね」 「それはできません。ご家族と関係者以外の方にチームのメンバーの住所を教えることは固く禁じられています」 当然であろう。しかし、男はきっぱりとこう言った。 「私は彼女の関係者だ」 「失礼ながら、お名前をお聞かせ願えないでしょうか」 受付嬢の当然の質問に男は一瞬躊躇したが、次の瞬間、こう答えていた。 「私はタツノリ・ワキだ」 えっと、受付嬢は驚いて男を見た。名前からするとタツヤの家族だろうが、目の前の男はタツヤとはあまりにも受ける印象が違う。 しかし、次に男が発した言葉は、さらに彼女を驚かせた。 「アイン＝リーカスは、私の娘だ！」 初出：'93/02/27 Niftyserve FCGAMEP MES(17) #670 | ||
第２４話 エピローグ編【鎮魂歌】 （第５８回大会）「それで、その男になんと答えたんだ？」サカキがそう聞き返す。 「ええっと、そういわれましてもぉ、本当に身内なのかどうかはっきりしない以上ぅ、住所を教えることは出来ません、て答えましたらぁ、だったら他をあたるまでだがぁ、とか言ってぇ、帰って行っちゃいましたが」 受付嬢がどもりながら答えている。周りから詰め寄られているような形になっているためだ。 前日、『チーム３１』に不審な人物がやっていたと言う話を聞いたのだ。そこでサカキたちが、応対をした受付嬢に話を聞いているところである。 それにしても口調が舌足らずだ。マニュアル通りにやればよい応対とは勝手が違うからであろうが。 「それだけだったんだね」 「あ、はい」 彼女はすこし嬉しそうに話した。やっと開放されるという気配を感じたからであろう。 「で、確かに相手は『タツノリ・ワキ』と名乗ったのかい」 「え？ あ、そうです」 サカキが念を押すように尋ねた。よっぽどその名前に気にかかるところがあるのだろうか。 後ろで話を聞いていたゴローが、隣に立っている女性に話しかけた。 「シーマさん、『タツノリ・ワキ』って確か」 「ええ。タツヤ君のお父様の名前がそうだったわね」 「その人がアインちゃんの父親を名乗った……？」 「そうらしいわね」 「そんな、それじゃあ！？」 言わずもがなのことをゴローが叫んだ。シーマも話を聞いていたほかのチームメイトたちもその事実に気付いて声が出ない。 ただ、サカキだけは他の事も考えていた。 『タツノリ』だと？ もしかしてあの『タツノリ』か？ 確かにタツヤにはタツノリの面影がどことなくあった。性格はあまり似ていないが。 しかし、話を聞いていても、あまり言動があいつらしくないように思えるのだが…… 歳月が人を変えたのかもしれない、とサカキは思い始めていた。 「帰ってください！ おじさま！ あなたに会う気はありません！」 アインがヒステリックに叫ぶ。玄関の扉の向こう側には、男が立っているはずだ。 その男、タツノリ・ワキがドア越しに声をかける。 「私は娘を迎えに来たのだ。いきなりな話で信じられないのも無理はないが」 「父親だったら、どうしてタツヤの葬式にも出なかったのですか！ いくら勘当同然に家出したからといっても、自分の子供の葬式にも出ないような人と暮らしたくはありません！」 アインが泣きながら怒っている。だいぶ興奮してきているようだ。 「死ぬ時まで母をほっといていたのですか！ すぐ近くに住んでいたのに。母は２年前に亡くなったのよ！ それ以来私は、私は…… ずっと……」 「ずっと探してはいた。少々問題があって探し出すのに手間取ってしまったがね。やっと見つけだしたのが、というより君の母親がそうだと分かったのが半年前だった」 半年前というと、タツヤがルーキーとしてマッチメーカーで活躍していた頃であろう。そのころアインは、あの男の側で秘書として働いていた。 だが、興奮している女性にそんな理屈は通用しない。アインはますます声を荒立てて怒りだした。怒りがますます込み上げて来る。 「あの街へ越して来るまでに、私達がどれほどつらい思いをしてきたのか知ってるのですか！ 母は死ぬほどの思いをして私をあの街に連れてきたのよ。ううん、母だけじゃない。母をよく面倒見てくれた人は、私達をあそこへ逃がすために命を落としたわ。血のつながらない私を実の娘のようにかわいがってくれたのに……」 そうだ、その人は強くたくましい人だった。父親のいないアインにとっては父親代りともあこがれともいえる人だった。 だからこそ、アインは強い男に、そしてタツヤに惹かれたのだ。強くなりたいと思うがゆえに、その人にどことなく似ているがゆえに。 「帰って！ 私にとって親と呼べる人はその２人だけよ！ そして２度とあらわれないで！」 彼女の強い口調に、タツノリはいったんあきらめたようである。 「今日は無理だな。また出直す事にする」 そういうと、ドアの前から去って行ったようだ。 しばらくして本当にタツノリが去ったのだと確信すると、アインは居間へ移動した。 そして写真立てにはめてある写真 −幼い頃の彼女とタツヤ、そしてアイが仲良く映っている− を横目で見ると。 泣いた。 ただ、泣く事しか出来なかった。 第５８回大会には、アインは“レクイエム”と名付けられた機体で参加した。前回の試合で機体が誘爆してしまったため、彼女は最下級クラスのライト級（所持金２０００Ｃｒ．〜２５００Ｃｒ．）に参加する事になった。 対戦相手は『テクノス』に所属するノヴァー選手の機体“デラム”である。 大会開始後の第２試合が彼女の出番である。 “レクイエム（鎮魂歌）”と名付けられたのは、アインの希望である。マッチメーカーで死んだタツヤの死を悼んでの事であろう。 しかし、それ以上にそこに乗り込むアインの様子はただ事ではなかった。どことなく思い詰めた表情をしている。 その様子に気がついたのか、サカキが声をかけてきた。 「どうした。やっぱり今回は参加を見合わせた方が良かったか」 アインは無言のままだ。 無理もない。タツノリが押し掛けてきたのはつい２〜３日前のことである。衝撃からまだ完全に立ち直れなかったとしても不思議ではない。 が、アインはいきなり振り返ると、思い切ったように話し始めた。 「心配しないでください。私は大丈夫です」 「やれるか？」 「やれます！ そのためにここにいるのですから」 アインはきっぱりと宣言した。あるいはそれは、自分に言い聞かせるためのものだったのかもしれない。 タツヤが自分とどういう関係にあろうと、アインにとってタツヤは幼なじみであり、弟のような存在であり、そして恋人であった。 そしてそれは、今となっても変わってはいないのだ。 試合開始直後、相手の機体“デラム”がいきなり距離をとったが、相手はなぜか攻撃してこなかった。しかしその隙に放った目くらましのフラッシャーはかわされてしまったようだ。 今度は立ち止まったデラムに対し、レクイエムが懐に飛び込んだ。ストライクス・スリーの最適距離を得るためだ。だが、デラムはそれをトンファーで待ち構えていた。その一撃がマントを破壊して、余った勢いでレクイエムの右腕を傷つけたのだ。 幸いにも損傷は少なくて大事には到らなかったたようだが、レクイエムのフレームには最軽量級のものが用いられているのだ。少しでも大き目の被害を受ければパーツごと壊れるところなのだ。それは、イニングマッチのこの試合では敗北を意味する。 そして試合の流れは相手の方にあったようだ。ストライクス・スリーの攻撃はトンファーで受け流されてしまった。 今度は逃げたデラムに対し、レクイエムがドリルミサイルで応戦したが軽く避けられてしまった。なおも接近出来ないレクイエムにたいし、デラムはＨＳＳ炸裂弾を使ってきたのだ。 しかし、ここで試合の流れが変わった。デラムのＨＳＳ炸裂弾がいきなり暴発を起こしたのだ！ 仕方なしにデラムはトンファーで攻撃するため近づいてきた。しかし、レクイエムはその攻撃をアームシールドで受け止めたのだ！ そして、トンファーの最適距離はストライクス・スリーの最適距離でもある。レクイエムはストライクス・スリーの攻撃を次々とヒットさせていったのだ。 試合開始後６分、レクイエムがデラムの胴部を破壊し、勝負は決まった。 対戦相手が死んだというのに、アインはあまりショックを感じなかった。 タツヤが亡くなってからまだあまり日にちが経ってないからだろうか。相手が脱出に失敗し、外部転送装置も働かなかったという話を聞いても、はいそうですかという以上の感想を持てなかったのだ。相手とそれほど面識がなかったというのも理由の一つだろう。 タツヤは、対戦相手が死ぬと落ち込むことが多かったという。 なぜだろうか。 アインは、しばらくその理由を考えてみることにした。 「そうか、アインが勝ったのか。うむ、ご苦労」 男がその電話を受け取ると、側にいたジカートが話しかけてきた。 「アインさんが勝ったのですね」 「うむ。しかも対戦相手が死亡したというおまけ付きだそうだ」 「あらま、しかし相手には悪いけどアインさんが無事で良かったですよ。あんなことがあって満足に戦えないんじゃないかと思ってました」 ジカートが安堵の表情ではなす。と、急に顔つきが変わった。 「しかし、本当に今度のトーナメントで最後にするんですね。もうこれ以上アインさんのつらい表情は見るに耐えません」 「……そうだ。彼女にはもう十分に代償をいただいた」 男はジカートの方に、顔を向けないで答えた。 「しかし、本当にあの方が、タツヤの父親がアインさんの実の父親なのでしょうか。私には今でもあまり信じられませんが」 男は何も答えない。その表情からは、肯定とも否定とも読み取ることができない。 そこへ、また電話がかかってきた。男が電話をとる。 「もしもし、私だ。……うむ、うむうむ。なに！？ そうか、ついに彼が……したのか。わかった、今行く。そちらも次の大会に間に合うよう、……そうだ、急いでくれ」 初出：'93/03/11 Niftyserve FCGAMEP MES(17) #849 | ||
最終話第１編 エピローグ編【終楽奏】（１）（第５９回大会／第７回トーナメント）「おじちゃん、こんばんわー」「よ、アインちゃん。こんばんわ。いっつも元気だね」 まだ幼い私の家に、一人の男がやってきた。私の母親ナーシャの数年来の友人らしく、私が物心ついた時にはすでによくやってきていて母の世話をしてきている。 まだ幼い？ いいやそうではないはず。私は今年で２０歳だ。 じゃあ、あの幼い私はだれ？ そんな疑問を感じたまま、彼女（私？）たちは話を進めていく。 「いつもすみません、……さん。私たちのために」 母がでてきて応対をする。え？ あの人はどういう名前だったかしら？ 「いやいや、こういうご時勢だから。あんたたちに危険なまねはさせたくないしな」 「……さんだってあまり出歩くのは危険じゃありませんか。いつ……に狙われる事か」 だれなのかしら、この人。どこに狙われるって？ 「いいや、あんたはオレの命の恩人じゃないか。それに知らなかったとはいえあんたの方だってバレたら狙われるのは同じ。どうせ狙われるなら、オレだけのほうが何とでも対処できるからな」 そう、確か行き倒れてたこの人を母が助けたのだと言っていた。 そのとき、いきなり私がこの人に飛び付いてきた。 「そうよ、おじちゃんつよいんだもーーーん。こないだだって、どろぼうふたりぱっぱとやっつけちゃったしぃ。いつだってわたしたちまもってくれるよねえ」 「はいはい、お姫様。いつだってお守りしますよ」 男の人がおどけていう。 「やだぁ、おじちゃん。アインおひめさまじゃないよー」 そういうと、私は男の人に顔を近づけて行った。 「ねえ、おじちゃん。どうしておじちゃんはアインのおとうさんじゃないの？ みんなにはおとうさんがいるのに」 「え…… あ、困ったな。なんて言えばいいのかな。オレはお母さんとは友達なだけで、別に結婚しているわけじゃないんだよ」 「じゃあけっこんして！ そしてアインのおとうさんになって！」 「お…… おいおい」 男の人が困ったような顔をすると、母が諭すようにいった。 「アイン、そんなわがまま言うものではありません。……さんが困ってるじゃありませんか」 「やだ！ おとうさんになってくれなきゃいやだもん！」 そういい捨てると、私は自分の部屋に駆け戻って行った。 そんな私の様子を見ながら、男の人は母と話を続けて行った。 「やれやれ、あんなアインちゃんの様子を見ると何とかしてやらなくちゃって思うよな」 「それでは……さん、本当にこの国をでられるんですか？」 「ああ。チケットとパスポートは裏ルートで手に入れた。こういうことにはうってつけの金なら腐るほどあったからな。あんたの方こそ辛いかもしれんが、いま、この国にいつまでもいたら、あんたたちだって危険だ」 「分かってます。でも……」 「行く先はオレの祖国だ。平和で豊かな活気のある国さ。少なくとも今のこの国に比べたらな」 いつまでもこんな楽しい日々が続いて欲しかっただけだったのに。 しかし、運命は私たちをともに過ごす事を認めてはくれなかった。 いきなり時間の流れが早くなる。 スペースポートに向かう私たち。無邪気に笑っている私に対し、あの人の表情が険しくなる。 「いかん、知ってる顔がいる。スペースポートで見張られているぞ。万が一にもオレの顔が見とがめられたら、シャトルに乗る事ができなくなっちまう」 いかにもわけの分からないといった私。 あの人は母に何かを言付けると、母が止めようとする間もなく一瞬目を話した隙にいなくなった。 「あれ、おじちゃんは。おじちゃんはどこにいったの」 母は何も言わず黙って私の手をひいて行く。 警官だか軍人だかとおぼわしきものの駆け抜ける足音がこだまする。 ぱんぱんと銃を発射する音が聞こえる。 あちこちで悲鳴をあげる声がする。 「やだやだ、おじちゃんと一緒じゃなきゃやだ！」 シャトルの中で私が泣いている。母が辛そうに私を見つめている。 祈るような目つき。 ばかだな、オレって。２度までも惚れた女を逃がすためにわざわざ的になりやがるなんて。 そんな声が聞こえてくるようだわ。 先程の軍人たちが無線で話をする。 「行方不明だった元王家側傭兵部隊所属……少佐を発見、追跡中に抵抗され部下がやむなく銃を発射、射殺してしまいました。なお、同行者はいない模様であります……」 「おじちゃん！」 泣きながらアインは目を覚ました。 そしてあたりを見回す。 そこは誰もいない寝室だった。もちろん彼女の母親も、幼い彼女もいない。 夢だったのだ。 そうだ、あの人はあの時、殺されたのだ。 いままで思い出すこともなかった昔の話。あまりにも辛いため思い出すのを拒んできた過去。 しかし、あのタツヤの父親タツノリが自分の父親だと名乗られて、精神的ショックがかなり大きかったようだ。いまでも尾を引いていないといえば嘘になるだろう。 おかげで目が覚めた。 ふと時計を見る。朝５時３６分。大会開催にはまだ早い時間か。 ここは会場に用意されている仮眠室である。今日は第７回トーナメントが催される日だ。前日に機体を運んでいくのについていき、会場で休む事にしたのである。 機体格納庫では、彼女が乗るはずのアーマーナイト“フィナーレ”が出番を待っているはずだ。 そう、フィナーレ（終楽奏）。 彼女はこの大会を最後に、マッチメーカーを止める事を約束している。 この大会は、タツヤとアインの２人だけのストーリーのフィナーレ。 初出：'93/03/13 Niftyserve FCGAMEP MES(17) #907 | ||
最終話第２編 エピローグ編【終楽奏】（２）（第５９回大会／第７回トーナメント）第７回トーナメントが開催された。開会式がおごそかに行なわれている。 今回のトーナメントは、下位クラスのためのＡリーグ・２０分イニングマッチトーナメントと、上位クラスのためのＢリーグ・４０分タイムデスマッチトーナメントの２つに分けて行なわれる。所持金の関係もあって、アインは、Ａリーグで参加する事となった。 開会式の派手なセレモニーが終わると、アナウンスが声をあげた。 「ただいまより、マッチメーカー、第５９回大会、トーナメントＡリーグを開催します！」 会場のＶＩＰ席では、男がその模様を見物していた。 まだ２０代前半と思われる若い男である。 しかし彼は、これでもチームを３つ所有しているオーナーである。今回、彼はＡリーグに、所有するすべてのチームを参加させていた。 そしてアインの所属する『チーム３１』も、彼のチームである。 彼は先程から、トーナメントの組合わせを調べていた。 「アインの試合はＡブロックの第７試合か…… 結構早いな」 後ろに控えていた車椅子の男がピクッと反応した。ジカートではない。その男は……まだ少年としてのあどけなさが残るが……しかし精悍な顔付きをしている。 「今回で彼女ともお別れだからな。彼女には悔いの無いように戦ってきてもらいたいものだ」 男はアインのことを昔から知っていた。アインだけではない、タツヤのこともアイのことも、サカキもゴローもシーマも、みんな知っていた。 それはそうだろう、昔から彼らは私の分身なのだ。 男は後ろを振り向かずに話しかけた。 「どう思うかね、ここから見ているという気分は」 「……見守るということがこんなにつらいこととは思いませんでした。今はただ、無事でいてくれるように祈るのみです」 そして彼は、男に対して怨みがましそうに言った。 「オレは……あの人から独り立ちするつもりでいて、結局貴方の……みんなの世話になり続けていたんですね」 「かもしれん。だが、これからもそうであるかどうかは君次第だ」 そこまで言うと、男は後ろを振り向いた。 「この大会が終わったら、迎えに行ってやることだ。かつて彼女がそうしたようにな」 試合開始前、アインは一人で静かに座っていた。 タツヤの時は騒ぎまくっていたチームメイト達も、アインの前では神妙にしているようだ。おもちゃにされていたタツヤと違い、さすがに彼女が相手では手を出しにくいのだろう。 アインはマッチメーカーで戦うのはこれで３度目だが、アーマーナイトに乗るときはやはり相当な覚悟が要るのである。それは、前２回の戦いを得たあとも、いや、２回の戦いを得たからこそ、その覚悟がかえってより真剣なものになるのである。 それはそうだろう。１度目の戦いでは危うく爆死するところだった。２度目の戦いでは相手を死なせたのだ。彼女の性格からして、３回という約束を待たずに止めようと言いださなかった方が不思議である。 しかし、彼女は逃げださなかった。タツヤへの思いからだ。 タツヤはなぜ最後まで、死ぬまでマッチメーカーにとりつかれていたのだろうか。 彼女はこの大会でその答えを見つけ出すつもりだった。 彼女の１回戦の相手は、『ＮＥＯ−ＧＯＫＵＲＡＫＵ』に所属する桃乃恋選手だった。 『ＮＥＯ−ＧＯＫＵＲＡＫＵ』は「愛を守ろう」とするもの達の集まりであるらしいが、どうやら初参加のチームのようだった。またアーマーナイト“ＶＴＲＳＹＳＴＥＭ”も、作成したばかりで調子がおかしく、テストも十分行われないうちに試合に参加したという無責任な噂がちらほら聞かれている。 しかし相手選手の方は元気一杯な少女である。かなり奇抜なユニフォームを着ていたが。 試合開始のサイレンがなった。アインは乗機“フィナーレ”をいきなり相手に近づけると、あらかじめプログラムされていたとおりにシャボンキャノンを撃ち放った。 それは楯を構えていないＶＴＲＳＹＳＴＥＭにじかに命中し、その周囲に無数のシャボン玉からなる霧が取り巻いた。現在相手のセンサーには、こちらの姿が影のようにぼやけて見えていることだろう。 案の定、アイアンネイルによる反撃は、見当違いの方向にいった。フィナーレは駄目押しとばかり、シャボンキャノンによる一撃をさらに命中させた。 その後、フィナーレは一歩引いて、ウォーハンマーで攻撃を仕掛けた。それがＶＴＲＳＹＳＴＥＭの唯一装備しているアイアンネイルに命中し、これを破壊したのだ。 ここで試合の大半は決したといってもいい。その後ＶＴＲＳＹＳＴＥＭは格闘戦にに持ち込もうと近づいていった。しかしシャボンキャノンによる一時的な機能低下もあって攻撃を命中させることもできず、逆にフィナーレの方の攻撃が命中する一方だった。 試合開始後９分、フィナーレのウォーハンマーが、ＶＴＲＳＹＳＴＥＭの胴体を破壊したのだ。 初出：'93/03/13 Niftyserve FCGAMEP MES(17) #993 | ||
最終話第３編 エピローグ編【終楽奏】（３）（第５９回大会／第７回トーナメント）「みんなー！ 俺は今、猛烈に嬉しい！！！」試合終了後のインタビューで、その男はそう答えていた。 彼のそのしぐさや態度、言葉使いが、古のストーリーの登場人物を思わせてくれた。なんでもヒーローにあこがれているらしく、その姿を見ていると今にもどこかへ向かって駆け出していきそうだ。 アインはその男の姿をモニターで見ていて、思わず懐かしそうな気持ちにさせられた。昔の、アーマーナイトのパイロットになりたがってた頃のタツヤを思い出したからだ。 タツヤもああいう時期があったわねと、思い出さずにはいられなかった。強い男になろうとしていたタツヤは、ヒーローにあこがれているあのドーラーとけっこうよく似ているではないか。 彼の名は草薙雅人。１回戦を勝ち抜いたところである。チーム『ネ結社団』に所属している彼は、アインの次の対戦相手となるべき相手であった。 いよいよＡリーグ２回戦が開催された。 １回戦を順当に勝ち抜いて来たチーム同士の対戦が行なわれている。 アインと草薙の試合はＡブロックの第４試合である。アナウンサーの声を合図に、両側のゲートからそれぞれの機体が現われた。 アインの乗機“フィナーレ”と対峙しているのは、草薙の乗機“鬼宿”である。「きしゅく」ではなく「たまほめ」と読むらしい。 そして、サイレンを合図に試合が開始された。 会場に転送されたフィナーレはその位置で相手を待ち構えたが、鬼宿は距離をとると、左手から繰り出される電磁ヨーヨーをフィナーレにいきなり命中させたのだ！ そのアーマーナイト用の巨大ヨーヨーは、フィナーレのマントを剥ぎ取るとその上からさらにフィナーレの右腕部にダメージを与えたのだ。 幸いその一撃は大事に到らなかったようだが、それにしてもその性格とは裏腹に侮れない相手である。 アインはお返しとばかりに、シャボンキャノンを連続で撃ち放って相手を惑わせようとした。その効果はあったらしく、続く相手のヨーヨー攻撃はフィナーレにかすりもしなかった。 その間隙をついてフィナーレは相手に接近した。この距離では相手の思う壷だからだ。ウォーハンマーの適正距離は、ヨーヨーよりも近いのだから。 それに面食らったのか、鬼宿は右手に構えていたアイアンポールで牽制してきた。しかし先程のシャボンキャノンの効果がまだ残っていたのか、容易に避けられる攻撃だった。 そしてアインはフィナーレにウォーハンマーを構えさせると、鬼宿の左脚部に命中させこれを破壊したのだ。 試合終了後のインタビューで、草薙はこう述べていた。 「俺は今、猛烈に残念」 試合ごとに暗く落ち込んだりせず、明るいところがタツヤと違うところのようねと、アインは思ったという。 「アインちゃん、よく頑張ってきたね」 「見事な戦いっぷりだったよ」 「おめでとう、無事でなによりだ」 アインが会場から戻ってきた時、チームのみんなが迎えに来てくれた。 みんなアインの勝利を祝福してきている、というより、アインの無事を喜んでくれているようだった。 アインがパイロットとしてアーマーナイトに乗り込むと聞いた時に、反対したのは何もサカキだけではない。『チーム３１』のメンバーは、そのほとんどが反対したものだった。 特にゴローは強く反対した。ドーラーとして認めたオーナーの正気をも疑ったほどだ。それでもアインの強い意志におされて、しぶしぶながら整備を引き受けてくれた。 彼らの目から見ても、アインがドーラーとして向いているとは思えなかったのだ。 しかし、いくらビギナーにも簡単に扱えるよう簡素化しておいたといっても、アインのその冷静な戦いぶりには、驚くものが多かったようだ。 当のアインは、その事をあまり意識していなかったようだが。 「さ、もどろか」 迎えに来た連中に連れられて、アインは控え室に戻って行った。 『チーム３１』のメンバーは、そのほとんどが男である。特に整備班など会場にやって来るメンバーは、現在ではアインを除くと男しかいない。 だから控え室には美女が１人に野獣が大勢という極めて危ない状況になるのだが、アインにあからさまに手をだそうとする不届き者は今のところいない。 今はもういないチームメイト、タツヤの大切な人であるゆえに。 初出：'93/03/13 Niftyserve FCGAMEP MES( 8) #027 | ||
最終話第４編 エピローグ編【終楽奏】（４）（第５９回大会／第７回トーナメント）トーナメントが行われている会場に、１人の男が現れた。その男は、見た目の雰囲気は４０を越えてはいるだろうが、その体付きはまだ３０代のものを思わせる立派なものである。 レイバンのサングラスをかけており、スーツを着こなしているその姿は、やはり気品というものに溢れていた。 大会係員が、男を迎えにやって来た。 「ようこそいらっしゃいました。ワキ様でございますね。お席のほうはこちらでございます」 「うむ、ご苦労」 慇懃な物言いである。人に命令することに慣れた口調だ。 彼はここの大会の、試合を見にやって来たのである。目的はただ一つ、アインの試合を見るためである。そしてできるなら、アインを連れて帰りたいと思っている。 男は、案内されている間、アインのことについて考えていた。そして彼女の母親、ナーシャ＝リーカスのことも。 アインが自分の娘であるという彼の言葉は嘘ではない。昔、彼は自分が犯した過ちをずっと気にしていたのだ。ナーシャに娘がいると言うことはつい半年前まで知らなかった。それがタツヤの女友達だと気づいたのはおよそ３ヵ月前、タツヤがいったん家に帰ってくる直前である。 親同士の付き合いが無かったためでもあり、男の立場も昔と変わってたからでもあるが、お互いにすぐ近くに居ることに気づかなかったのだが。 それにしてもタツヤには酷いことをしたものだ。それがかえってタツヤの反発を呼んでしまった。その結果がこれであるのか。 そして彼は、古い友人についても思い出していた。それは昔、彼の犯したもう一つの過ちについてのことである。 そんな彼を、たまたま通りがかった一人の男が驚いたような目で見ているのに、彼はそのとき気づかなかった。 「あれ、親父さんは？」 前の試合で傷ついた“フィナーレ”を修理している最中、ゴローはサカキがいないことに気づいた。 「ちょっと用足しに出掛けてくるって言ってたけど」 「それにしても遅いじゃないか。いつも会場での整備には厳しいことをいう親父さんがこんなにこの場を離れたこと、今までにあったか？」 「確かにそうだな、どうしたんだろ」 そう言われてその整備士は、ちょっと首を傾げた。 「まぁいいか、うるさいこと言われずにすむし」 だからといって、整備に手を抜く連中ではない。仲間を２度と死なせたくない気持ちは同じである。 彼らの目の前には、マントを１枚剥がされて痛々しい姿をさらしている“フィナーレ”があるのだ。 アインの３回戦の相手は、『トリオ システムズ』に所属するラリー・ビンセント選手である。相手はアインと違い戦いの経験をそこそこ積んだ中堅選手であるが、同じ１９歳の女性と聞いて、アインは今回の対戦相手にわずかながら親近感を持ったものである。 そんな相手選手の乗機“バイパー”は、その名のとおり猛毒を持つ蛇、コブラのデーターを元にして作られたと言われるアーマーナイトである。その装備は低機体価値ながら、反応性能を重視した高機動型の整備がなされていた。その機動力はフィナーレをも上回っているようだ。 「でも、悔いの残らないように頑張ります」 試合前に対戦相手の情報を聞かされたアインは、落ちついてそう答えたものだ。彼女は今回の大会を最後に引退することを約束している。悔いの残る戦い方はしたくないと思うのも当然である。 その決意が天に通じたのか、試合開始直後、先にイニシアチブを取ったのはフィナーレの方だった。相手の至近距離まで近づくと、シャボンキャノンを放ったのである。 「うわぁ、綺麗……」 アインは一瞬大きなシャボン玉の舞うその光景に見とれていた。昔を思い出してしまったのだ。だが、虚をつかれたバイパーはブレイドで反撃する余裕も無かったようだ。 もう一度フィナーレはシャボンキャノンを放つと、相手の攻撃を避けてウォーハンマーで攻撃に出ようとした。しかしその一撃は、相手の左手に持っていた的に吸い寄せられていくように当たっていったのだ。 返す刀でバイパーは攻撃したが、この攻撃をフィナーレは避けていった。 しかしそれはバイパーの牽制だった。隙をつくとウォーハンマーの届かない距離まで離れたのだ！ アシッドガンが襲う！ フィナーレはそれをなんとか避けたが、そのころにはバイパーはシャボンキャノンで一時的に落ちていた性能を回復させていたのだ。 「なかなかやるわね」 アインは思わず相手に賛辞を送っていた。 “あなたの方こそ” え？ 思わずアインは耳を疑った。対戦相手のラリー選手の声が聞こえてきたような気がしたのだ。 幻聴……なのかしら…… しかしその迷いを一瞬で振り切ると、アインは思い切って間合いを詰めた。 相手はまたも躊躇したようだ。その間にウォーハンマーを振るう。その一撃は避けられたが、再び間合いを取ろうとする相手めがけて攻撃した次の一撃は、バイパーの胴部に命中し、勝負を決めたのだった。 アインは戦いの最中に聞こえてきたあの声を、単純な幻聴とは思いたくなかった。彼女自身はテレパシーのたぐいを信じてはいないが、心の奥底から相手の考えが伝わって来たようだったのだ。 そしてなぜタツヤがあそこまでマッチメーカーにこだわったのか、その理由が分かってきたのだ。 試合後のインタビューで、彼女はこう答えたのだ。 「タツヤの見てきたものが分かりました。生と死の極限の瞬間に相手と言葉ではない真実を交わすことができるもの、それがマッチメーカーでした」 そしてうがちすぎかもしれないが、なぜみんなが３回だけ整備を引き受けると言っていたのか分かるような気がした。マッチメーカーの本当の魅力、それに気づいたものは容易には抜け出せなくなってしまう。そしてそうなる前のギリギリ安全な回数が３回なのではないか。 しかし彼女は今回を最後に引退する。それは変えられない約束なのだ。 初出：'93/03/19 Niftyserve FCGAMEP MES( 8) #033 | ||
最終話第５編 エピローグ編【終楽奏】（５）（第５９回大会／第７回トーナメント）「あのう、観戦中失礼だとは思いますが、ワキ様、よろしいでしょうか」３回戦のアインの試合をＶＩＰ席で見ていたその男の元へ、係員がやってきたのだ。 彼に面会を求めてきている男性がいるという。 「どういう男かね」 男が尋ねてみると、４０過ぎのどこにもいそうな男だという。ただ、彼の古い友人であると名乗っているそうだ。 男にその相手の心当たりはなかった。 しかし、興味はあったので、男はあってみる事にした。 大会会場に備えられている応接間に行ってみると、男の客人は既にそこで待っていた。 「タツノリ・ワキ様をお連れしました」 係員が紹介している間、男はその客人をしげしげと眺めた。 いかにも整備士といった風袋である。男は、一瞬眉をひそめた。 「『チーム３１』でメカニックチーフをやっている、ケイゴ・サカキと申します」 その客人の挨拶に、男はいやな顔をした。 「タツヤのメカニックチームに知り合いはいなかったはずだが」 係員が出て行くのを確かめながらそう言うと、男は腰をかけた。 「立ち話もなんだから、ここにかけようじゃないか。これでもどうかね」 そういうと、男は側にあったブランデーを１本開けてグラスにそそいだ。 「古い友人だと聞いていたのだがね」 「もちろん古い友人ですよ、タツノリのね」 「……私がタツノリ・ワキだが」 「タツノリは私の親友ですよ。同郷の出身で、同じ傭兵部隊に所属していた。彼は私が酒を飲めないことぐらい知ってたはずだ」 目の前のグラスに視線を落としながら、サカキはこうも付け加えた。 「貴方はタツノリの指揮の元、国外脱出していたはずだ。そろそろ腹芸は止めて、彼の身に何があったのか教えてくれませんか、ムッデール殿下」 タツノリ、いや、ケイゴにムッデールと呼ばれた男は一瞬黙っていた。 しばらくして、口を開いたのは男の方だった。 「それを知って、どうしようというのかね。私は既に、王家とは縁が切れているのだ。ほっといて欲しいのだが」 「そうはいきませんよ。私はタツノリの親友だ。彼がその後どうなったか、今どうしているのか、聞きたい事は山ほど有ります」 サカキはそういうとじっと男を見つめた。 「わかった…… 私もいつか誰かに話さなければならないと思っていたところだ。私の罪滅ぼしとして聞いてくれ」 男は観念したように話しだした。 「あの脱出作戦は結果的に失敗してしまった。誰が悪いというわけでもない。スペースポートも王家専用のシャトルも、既に反乱軍側に押さえられていたのだ。そこで我々は、新政府に抵抗するレジスタンスに約１年近くもの間、身を寄せる事になったのだ」 もちろん、身分を隠してねと男は笑った。どこで新政府側に漏れるか分かったものではないからだ。万が一にも旧王家の生き残りがいると知れば、政府は必ず捉えようとしただろうと。 アーマーナイトという武装を持っていた彼らは、レジスタンスに歓迎されたらしい。だがタツノリは、その中でもいろいろ手をまわして国外脱出できるように準備を進めてくれていたようだ。 「しかし彼は脱出を実行する直前、政府の残党軍掃討部隊の襲撃があってね。タツノリはその戦いを最後に行方不明だ。命を落としたと判断された。いや、もしかしたら脱出装置で脱出していたかもしれないが、いずれにせよ戦場の真ん中では命はないだろう」 それはそうだろう。ショーとはいえ最善の設備の整っているマッチメーカーの大会とはわけが違うのだ。 「そして私は、何名かの供のものと一緒に脱出に成功した。その中にはタツノリが後を私に託した者もいた。しかし空港の検閲をパスするのに下手な偽名を使うわけにもいかなくてね、すまないとは思いながら、タツノリの名前とチケットを拝借したというわけだ」 そしてタツノリ・ワキとなった彼がこの国へついてからしばらくして、豊富な隠し財産と経営の才覚で経済界に乗り出す事になる。 もともと王族としてよりも、こういう事の方に向いていたようだと男は笑って言った。 「なるほど。それで、アインがあなたの娘だというのは」 「彼女の母親は、もともとレジスタンス側が支配していた村の娘だった。私たちの面倒も良く見てくれたよ。私の若気の至りとはいえ、そのおかげで向こうもそれから随分と苦労したようだ。私も気になってずっと探してはいたが、あの国に私が旧王家の者だとは知られたくなかったし、私には妻子もいたしな。あまり派手に探す事は避けたかったのだ」 そういうと、男はなぜかほっとしたような声をもらした。 「なぜかほっとした気分だ…… ずっと気にかかってたことだ。誰かに聞いてもらいたかったのかもしれんな」 アインはその夜、また夢を見た。 まだ幼いタツヤが、必死になってアインを追っかけて来るのだ。 その前を、幼いアインが走りぬけて行く。 昔のタツヤは、おとなしくどこかひ弱なイメージのある男の子だった。そんな男の子に、アインはよく声をかけたものだ。 追い付けずにバランスを崩して倒れたタツヤが、泣きそうな顔をしていた。 「こら！ おとこのこは、すぐにないたりするもんじゃないの。おんなのこにきらわれちゃうぞ」 「ぐす…… アインちゃんは、ぼくのこときらいになったの？」 「きらいじゃないわよ。でも、すぐなくのはすきじゃないよ」 「じゃあ、どんなおとこのこがすきなの？」 タツヤの突拍子もない質問に、アインは昔、おじちゃんと呼んでいた母の知り合いの男の人を思い出していた。いつもアインと母親を守ってくれたあの人のことを…… 「つよいひと。つよくてかっこいいひとがすきよ」 アインは思わずそう宣言していた。 「じゃあ、ぼくつよくなる！ つよくてかっこいいひとになるんだ」 幼いタツヤがそう言った時、背景が大会会場に変わった。 目の前にいるのは、アーマーナイトだ。 そのコクピットから出てきたのは、見違えるほどたくましくなったタツヤは、驚くほどあの人に似ていた。 「約束どおり強くなったよ。これでいつでも君を守れるね」 そのタツヤに対し、アインは１歩引き下がる。 「どうして逃げるんだ。君の理想通りになれたというのに」 やめて、タツヤ。あなたと私は…… そのとき、アインは目を覚ました。 そして、それが夢である事を思い知った。 大会はまだ続いている。今日は、４回戦が行なわれるのだ。 初出：'93/03/19 Niftyserve FCGAMEP MES( 8) #037 | ||
最終話完結編 エピローグ編【終楽奏】（完）（第５９回大会／第７回トーナメント）「それではいってきます」『ああ、頑張ってこい』 フィナーレのコクピットの中から、アインは整備をしてくれた人達に挨拶をした。もうすぐ彼女の試合が始まるのだ。 アインの４回戦の相手は、『風の民』の言う名のチームに所属する雷帝選手である。 彼の乗機“雷光”は、ここに勝ちあがって来るまでに、既に幾つか武装を剥がされているようだ。低い機体価値がそのことを物語っていた。 しかしそれでも、西ゲートから現われた“雷光”の姿は物々しかった。 ダークブルーの基調とした機体の右肩には、雷の紋章が金色に輝いている。圧倒されそうなその姿はまさしく、相手選手が名乗る雷の神・古代神話に出て来る“雷帝”そのもののように思えてくる。 試合開始のサイレンが鳴ると同時に、すばやい動きで雷光が距離を離した！ フィナーレはその動きに全くついていけない。 雷光にとっては不幸中の幸いで、武装を剥がされていたためにかえって機体が軽くなり、反応性能が上がっていたのだ。 そしてフィナーレに向かってフラッシャーをたいたのだ。 「きゃあ！」 フィナーレは、そしてモニター越しとはいえその閃光をまともに見たアインは目が眩んでしまった。苦し紛れにシャボンキャノンで無数のシャボン玉を相手に放ったが、相手はそれをことごとくかわして行った。 「なかなかやるわ」 それでもフィナーレは、もう一度シャボンキャノンを撃ち放った。濃塩酸でできたそのシャボン玉は今度は雷光に命中した。そのため相手も一時的に性能が落ちたようだ。 「アインちゃんも、なかなかやるな。もしかしたら入賞がねらえるかあ」 控え室で、ゴローが感嘆した。彼だけではなく、サカキも周りのみんなも、今大会はシーマまでもがここに来ていて戦いに見入っている。 『チーム３１』のチームメイトたちが、フィナーレの戦いぶりをモニター観戦しているのだ。 その後、雷光のジェットハンマーと、フィナーレのウォーハンマーとの攻撃が数分間続いた。互いに性能が回復しきっておらず、空振りが続いた。 しかしその空振りも、終わる時が来たのだ。 試合開始後５分、 性能の回復した雷光が、ジェットハンマーを命中させたのだ！ その避けきれない攻撃をアームシールドで受け止めたが、アームシールドはそれほど装甲が厚くない。ジェットハンマーの一撃はそのアームシールドをも貫通し、フィナーレの左腕にあたったのだ。 衝撃が機体を襲う。 さらに駄目押しの攻撃が続いた。次の一撃はマントを身代わりに捨てる事で何とかかわしたが、その際の衝撃でさらに機体の性能が落ちてしまった。 そのため苦し紛れのフィナーレの反撃は、相手にかすることもできなかったのだ。 さらに衝撃が加わった。機体のバランスが一時的に取れなくなった。 機体のコンピューターが観念したような声をあげた。 『敵のウォーハンマーによる攻撃が右足に命中、これを破壊しました。マスター、私達の負けですね……』 「負けてしまったな」 サカキが声をあげた。 「そうですわね。これで、本当にお別れ……ね」 名残惜しそうに、シーマがうなづいた。 「でも、本当にこれでいいんですかね。きちんと別れの挨拶ぐらいした方がいいのでは」 ゴローが名残惜しそうに声を挟んだ。 「いや、このまま立ち去った方がいい。下手に会うと、別れが辛くなる」 サカキがそう答えた。 このまま別れた方がいいのだ。メカニックチームがいると、彼女は最後の時までマッチメーカーに参加することになるだろう。今回を最後に解散するのは、既に決まっているのだ。 だから何もいわずに別れた方がいいのだ。 アインは、誰も迎えに来ない事をいぶかしく思っていた。 そして『チーム３１』のメンバーがいるはずの控え室に戻ると…… そこには、誰もいなかった。 ただ、封書が残されているのみだった。 アインはその封を破いてそれを読むと、急いで外に駆け出して行った。 そこには、会場に来る時に乗っていたはずの送迎バスも、運搬用のトレーラーも残されていた。 ただ、人だけがいなかった。 「そんな…… みんな、こんなのないよ…… こんなのっていきなり……」 アインは、涙をこらえきれずにいた。 封書には、チームメンバーからの別れの言葉が記されていたのだ。 今頃は、『チーム３１』としての整備工場兼訓練場も閉鎖されているだろう。 大会はまだ続いている。しかし、タツヤとアインの２人のマッチメーカーはもう、終わりをつげていたのだ。 ふと気がつくと、彼女は門のところまで来ている自分に気付いた。放心状態でやってきていたらしい。 昼間だというに、人影はまばらだ。まだ、試合が行なわれているからだろう。 そんな中に、彼女は見覚えのある人物が立っているのに気付いた。 最初はその目を信じられなかった。 その人物は、身体に少し障害があるらしく、片足を引いて歩いてきた。手も少し不自由そうだった。 しかしその人物は、アインを見ると手を振ってやってきたのだ。 おじちゃん……？ いや…… アインは思わずその人物の名を叫んで駆け出していた。 「タツヤ！！！」 ジカートの運転する乗用車のなかで、男は帰途についていた。 アインの最後の戦いとなった試合を、ひとしきり観戦した後である。 ジカートが声をかけてきた。 「結局、タツヤさんは死んではいなかったんですね。貴方も人が悪い」 男は黙ったままだ。 「でも、それではあの時の死体は、一体何だったんですか」 ジカートが言ってるのは、タツヤが運ばれた病院でアインたちが見せられた、ほとんどバラバラになったタツヤの（と言われた）死体のことである。確かあの時の死体は、顔までグチャグチャになっていたが。 「……あそこの病院には、以前から手をまわしていたのだよ。タツヤが重傷で当分目を覚まさず、しかも２度とアーマーナイトに乗れないと分かった時、身元不明の死体を一つまわしてもらい、表向きには死亡したことにしておいたのだ。その間、タツヤはシークレットルームで治療を受けさせていた」 ようやく目を覚ましたのが、前回の大会が終わった直後である。その後は若さ故の回復力とリハビリの甲斐もあって、今では松葉杖なしでも何とか歩ける程度には回復していた。もっとも、完全な回復は望めないそうだが。 「しかし随分手の込んだ事をしましたねぇ。貴方らしくもない」 そうとはいいながら、ジカートには男の胸の内もある程度分かっていた。これは罪滅ぼしなのだと。 アインに秘書として働くのを強要したのも彼なら、タツヤをマッチメーカーに連れ戻すよう仕組んだのも彼である。検査入院に手を回したのも、アインの存在をムッデールに教えたのも、彼の仕組んだ事である。 だから、最後にはタツヤを死んだ事にして、命だけは助けたかったのだ。これからは彼がアインと共に、自分たちで切り開いた自分たちだけの人生を歩ませたかったのだ。それがタツヤへの、せめてもの償いと思うがゆえに。 「私も、かなり甘いな…… 彼女の言うとおりだ。これではまるで……」 「は？ 何か言いましたか？」 「え？ いや、ところでジカート君。君はこれからどうするのかね」 男はごまかすために、逆にそう尋ねてきた。 「そうですね、私はバトルライターですから。なにか記事を書くことで食っいつないでいきますよ」 「……というわけだ。表向きには死んだ事になってるらしいけどね」 タツヤはいぶしがるアインに説明をしていた。 話を聞いて、アインにはそれがいかにもあの男のやることらしいと思った。親切を人に見せるのをいやがり、形式上だけでも必ずなにかと代償という形をとらせるのが男のやり方なのである。 「もっとも２度とアーマーナイトには乗るなと言われてるけどね。だからこれからは誰にも頼らずにやっていかなくてはならない」 そしてタツヤは、アインに向かって告白した。 「だから、ずっとオレについてきて欲しい」 アインは一瞬、何言われたのか分からないといった顔をした。そして嬉しそうな表情を身体全体で示すと…… 次の瞬間には躊躇していた。 「だめよ、タツヤ…… だってあなたと私は……」 「あの人は、オレの本当の父親じゃないんだ」 タツヤは、アインの言おうとしている言葉の意味を察知すると、そう答えていた。 「昔、内乱で乱れる国から脱出する際、あの人の友人が仲間を逃がせるために命を落としたらしいんだ。詳しいことはあまりよく知らないんだけどね。あの人はその友人の名前を借りて国外逃亡を果たしたんだが、その友人から後を託された女性がいた。あの人はその女性と一緒にこの国まで逃げてきたけど、その頃その女性にはすでに、お腹の中にその友人との赤ん坊がいたらしいんだ」 そう言うと、しばらくタツヤは何もいわなかった。 「それじゃあその子が……」 「もう一度聞く。ついてきてくれるよね」 アインは、思わずうなづいていた。 そして、歩きだした。 道すがら、アインがタツヤに尋ねてきた。 「ねえ、これからどうするつもりなの」 「そうだな。マッチメーカーで稼いだお金が十分あるし、取り敢えずは何か始めるか」 彼らの本当のストーリーは、これから始まるのだ。 初出：'93/03/20 Niftyserve FCGAMEP MES( 8) #042 | ||
キャストスクロール初出：'93/03/20 Niftyserve FCGAMEP MES( 8) #043 | ||
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再掲：'99/12/20 http://www.tky.3web.ne.jp/~junhelm/ss/tatsuya05.htm
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